05 星はお前を選んだ

「〈風読みの冠〉のことだ。どこまで知っている」

「どこ、って」

 ティルドは首を傾げた。

「〈風神祭〉に使う細工物ってくらいしか知りません。どこだかの街にあるそれを祭りのために借り受けに行くんだって話くらいしか」

「成程」

 ローデンは言った。

「そのようなところだろうな」

「それが、何か関係あるんですか。その小隊の編成もそろそろだって聞きましたけど」

 ティルドは考えながら言った。時折噂に上るその任務に全く興味がないと言えば嘘になる。だが、できればエディスンの街を離れたくないと思っていた。

 この流れは、もしや彼がその任に就かされると言うことだろうか、しかしそんなことは、それこそ小隊長やせいぜい軍団長から指示されることであって、宮廷魔術師が一兵士に着任を指示するようなことはないだろう。おそらく、だが。

「小隊の編成は行われない」

「はあ?」

 ティルドはまた、間の抜けた声を出した。

「行われないって……それじゃ、今度の祭りじゃ冠とかは使わないんですか」

「そうはいかない。あれは儀式において重要な役割を果たすのだ。たとえ形骸化されていたとしても、あれがなければ祭りにはならぬ」

 ローデンはそう言うと立ち上がり、卓の向こうからティルドの方へと歩を進めた。ティルドは、ようやく解けかけていた緊張がまた戻ってくるのを感じる。

「ティルド・ムール」

「は、はい」

 ローデンは彼の前までくると彼の名を呼んでまた黙り、じっと少年を見た。

「あの」

 すっと魔術師の細い手が伸ばされてティルドの顎にかかり、顔を上向きにされる。小柄な彼の顔をどちらかというと長身の魔術師がのぞき込むには必要な行為であったかもしれないが、噂を思い出したティルドはほとんど反射的に身を引いた。

「な、何すんですか」

「まだ、子供だな」

「こう見えても、十七です。とっくに成人してます」

 軍に入るには成人たる十五歳を迎えていなければならないのだから、これは言わずもがなのことであった。だが成長期に嫌味な親戚のもとで過ごしたせいかは判らないが、同年代の少年たちと比べれば明らかに彼の身長は低かった。彼の剣の腕を知る隊の仲間あたりはそれをからかうようなことはないが、街の酒場などへ行けば子供扱いされることも多い。つい、口に出た台詞であった。

「成人していようが、子供だ」

 だがローデンは彼の劣等感など知りもしないから、簡単に言う。

「しかしそれでも、星はお前を選んだ。ティルド。道には苦難も多い。それでもお前は進まなくてはならぬ。幸運の神ヘルサラクが常にお前とともにあるように」

「……あの」

 いったい何の話なのだ、といい加減に叫び出したくなるところを懸命に堪えて、ティルドは小さく声を出した。ローデンの瞳と視線が合う。

「お前が、〈風読みの冠〉を迎え受けに行くのだ、ティルド・ムール少年。小隊は編成されない。何故なら、お前ひとりで行くのだから」

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