13 第三王子殿下のご協力のおかげ
「時間はたっぷりある。ゆっくりと旅をしてくるがいい。見聞を深め、実戦のひとつやふたつを経験してくれば、父上の覚えもめでたくなるかもしれん」
「せっかくですが殿下。俺は出世のために兵士やってる訳じゃないっすよ」
はじめのころは「畏れながら殿下。私は立身出世を目的として兵役に臨んでいるのではございません」くらいの口調を使っていた――少なくとも、そうしようと努力をしたものだったがこうして恋敵視があからさまになってくると、その挑戦受けて立つ、という気持ちになってしまう。
もちろん身分から何から、敵に利があることは承知だ。だが、実際にリーケルが招くのはティルドなのである。
伯爵令嬢が自分に夢中、と思うほどにはティルドも自惚れが強くはなかったが、リーケルは、ヴェルフレストよりも自分と踊りたいと言っていたではないか? それは王子に対する優越感となった。正確なところを言えば、リーケルはほかの相手とも踊ってみたいと言っただけであるから、ティルドのそれは拡大解釈ではあったが。
「面白い」
「何がですか」
ティルドはむっとする。彼の苦難が面白いと?――そうであろうとも!
「まあ、よい」
王子は一兵士の礼儀のなさを咎めることなく、何とも寛大に言った。
「安心して、行ってこい。お前が帰ってくるまで、俺が彼女を守ると約束するからな」
要らん、と言いたくなるのをまたもティルドは堪える羽目になる。何が楽しくてヴェルフレストにリーケルを護ってもらわねばならないのか。
そんなことを言って、王子殿下は満足そうに帰っていった。
ヴェルフレストがこんなふうに、ひとりで彼に話しかけてきたのは初めてのこと。
これまでは誰かしら、近くにほかの人間がいたものである。他者との会話のなかで聞こえよがし皮肉や嫌味を言ったり、護衛を伴いながら通りすがりのように声をかけたりしてきただけで、ティルドに話をするだけの目的で、単独で彼を訪れたことはなかった。王子殿下と一兵士ともあれば当然だ。
それが何故、ティルドの出立を控えたときに、こんなふうに話しかけてきたのだろう?
「ああ、そのことか」
宮廷魔術師が何でもないように言うのを聞いて、ティルドは少しばかり意外に思う。
「何か知ってるんすか」
旅立ちを翌朝に控えた夜、ローデン公爵がどうしても話をしたいというので彼は
「何度も言っているように、〈風読みの冠〉を受け取りに行くのがお前の任務であることを告げたのは星辰だ。だが大いに賛成した若い王子がいたことが、話を進めやすくなったことは事実だな」
「それは……つまり、早い話が」
「反対意見が出なかったのは、第三王子殿下のご協力のおかげ、ということになる。気にされていても不思議ではなかろう」
「あんの野郎!」
思わずティルドは叫んでいた。
「白々しいと思えばやっぱりそういうことか! クソ王子め、何が公正にだっ」
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