16 お星様の示した道に

 空は曇り空で、凶兆とは言わないが世辞にも吉兆とは言えなかった。

 ローデンならば何というのだろう、とティルドは思い、星を読むのと天候を読むのは関係ないかな、と思い直した。

 任務に納得がいったとはとても言えないし、追放ではないにしても突然、街から放り出されるという意味ではあまり変わらない。

 装備一式や潤沢な路銀は支給されたし、ケルクまでも与えられた。はじめてのひとり旅――初の単独任務としてはたいそう恵まれている。

 小隊長のレーンは心配のし通しで、こうなったらこうするようにだのああするようにだの、何だかんだと助言を寄越した。はじめのうちは有難く真摯に聞いていたティルドだったが、次第にうんざりしてきたくらいだ。

 友人のカマリは心配と、あとは活躍の場を与えられた少年に対する少しばかりの妬みを隠さず、ティルドはいまでもこの任務が妬まれるようなこととは思っていなかったが、羨ましがられれば少しだけいい気分にはなかった。

 とは言え、喜んで旅に出るという気持ちにはほど遠い。

 リーケルに会えなくなるのは寂しいし、彼のいない間にヴェルフレストがおかしな真似を――何とか姫とやらを蹴ってリーケルを婚約者にする算段を――しないかという不安もある。

 実際問題、王子殿下がそうしようと思って王陛下の許可が出れば、彼がエディスンの街にいようと遠き大砂漠ロン・ディバルンにいようと、物事は決定する。もちろん、無事に帰ってきて、ローデンに取りつけた言質のように近衛隊に入れたとしても、伯爵令嬢との将来など夢にすぎないことは判っている。

 ただ彼はもう少しこの逢瀬を楽しみたいだけで、相手がヴェルフレストでなかったとしても、「もしかしたら帰ってきたらリーケルは誰かと婚約をしていて、もう自分は二度と彼女の茶会に呼ばれないかもしれない」と思うのが気に入らないのだ。

(まあ)

(ヴェルフレストの野郎じゃなけりゃ多少はましだけどさ)

 彼は思い出したくもない相手を思い出してしまった自分に呪いの言葉を吐いた。出立に喜ばしい思い出ではない。

(さて――それじゃ)

(お星様の示した道に従うとするか)

 昨夜、宮廷魔術師はずいぶんとたくさんのことを語ったが、彼に理解できたのはごくわずかだった。

 理解したとは言い難く、判らないながらも不吉な感じだけは残った。

 しかし不吉な予言がどうあろうと、一兵士にすぎないティルドにできるのは、有難くも拝した勅命に従ってエディスンの街を離れることだけである。

 こうして一晩が明け、たとえ曇りがちでも昼の光のもとにいれば、「占い師閣下」の予言など、ただの戯言にしか思えなかった。

「ティルド」

 心配そうなカマリの声がした。少年は顔を上げる。

「しっかりやれ。無事に戻ってこいよ」

 友人の台詞ににやりと手を上げて、少年はケルクにまたがった。

「ぐずぐずしてても仕方ない、行ってくるよ。じゃ、またな」

 順調に行けば、遅くとも片道ひと月半、往復で三月かかるかどうかだ。行く先にも方にも不安がないと言えば嘘になったが、行くしかない。

 こうなったらいっそ、陛下の金でできるひとり旅を楽しんでやろう――。それくらいの楽観的な気持ちを抱え、少年は第二の故郷たる街をあとにしたのだった。

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