第十二話 次元を超えて楽しい夜を〈ターコイズ〉

「さぁさぁ、レディース&ジェントルメン!皆様には、一時ばかりではございますが、摩訶不思議で、奇天烈で、愉快&痛快な空間へご招待いたしましょう」

 ショーが始まるような放送開始の挨拶。そうこれから始まるのは紛れもなくショーだ。それも次元を超えたショーだ。

「さて、今宵はクリスマス!」

 画面には写っているのはいわゆるバーチャルライバーと呼ばれる人たちの中の一人。サーカスの団長兼曲芸師の彼の配信はいつも赤い幕のイラストの上に、配信テーブルが書かれていたり、画面端には季節のアイテムが転がっていたりと非常に凝っている。ハロウィンにはジャック・オー・ランタンが転がっており、今はツリーとプレゼントの箱が描かれていた。私は配信が始まるのを固唾を飲んで待っていた。

「だ、大丈夫、大丈夫……」

 今日、このクリスマスイブは彼の3Dの初お披露目の配信日、つまりクリスマスと言う日以上に、ファンにとって記念日となったのだ。

 そして、何を隠そう彼の3Dのモデリングを行ったのは私だ。お披露目配信の当日となり、あまりの緊張から心臓が口から飛び出しそうになっている。私は緊張した時の癖で、胸元に手を当てた。手の下にはゴツゴツとした感触があり、その正体は変質してしまった私の体……ターコイズだ。

(ターコイズ……成功の石ならこんな時ぐらい力を貸してよ……!)

 動作チェックもしたし、試運転だってばっちりだった。でも、そんな中でも、自分の携わったモデルが、世間に、視聴者に、どのように捉えられるのか、初配信やお披露目配信はいつも以上に緊張してしまう。

「細やかながら、私から皆様にプレゼントを……いや、自分へのプレゼントでもあるのですが……」

 そう言って配信画面の幕が上がる。画面中央に置かれているのは大きなリボンのついた箱。

「え、ちょ、えーっと……」

 なにやらぶつぶつと呟くような声が聞こえ、箱がゴトゴトと大きな音を立てて揺れ始める。コメント欄は「草」「もしや貴方がプレゼント!?」と大騒ぎで、「プレゼント代」と赤や緑のクリスマスカラーのスーパーチャットが飛び交い始めた。

 3Dのモデリング自体は初めてではない。しかし、ここまでチャンネル登録者のいるいわゆる大手の仕事をするのは初めてだ。

 ドラムロールと共にスポットライトがぐるぐるとその箱の周りを照らし始める。

「……ハイッ!」

 箱のふたが開いたかと思うと、軽快な音楽と共に中から飛び出すようにして本日の主役が現れた。彼のイメージカラーが所々に差し色として使われた燕尾服のような新衣装&初の3Dの姿という事もあってかコメント欄は大騒ぎだ。

「と、いう訳で、3Dでしかも新衣装のお披露目!今宵、サンタさんがあなたのお家を訪ねるまで、楽しいひと時にいたしましょう!」

 さて本日は~……と言う彼の配信の声を聞きながら、私はようやく緊張感から解放されていた。動きに問題はなさそうだ。依頼された時に渡されたイラストを見たときは「え、大丈夫なの……?」と不安だったが、全身全霊を尽くしてやった甲斐があった。

(サンタさんは来ないかもだけど、頑張って良かった)

 私は盛り上がる配信を眺めながら買ってきたケーキを口に運んだ。

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