第十一話 雷鳴〈トパーズ&シトリン〉

「雷なりそー」

 そう言ったのは放課後の教室に居座っていた隣の席の友達だった。

「そういやさ」

「ん?」

「雷ってスマホで写真撮れるのかな?」

 唐突なやつだ、何やら思いついたようなキラキラした瞳でこちらを振り返った。友達の目元から首筋に向かって伸びる黄色の亀裂のような石が、蛍光灯を受けて煌めく。

「……撮れなくはないんじゃない?」

 調べてみよーぜ? と、課題そっちのけでスマホをいじり始めた。まったく、先生が来ても知らないぞ、と言いつつ楽しくなってしまった自分がいた。僕も自分のスマホの検索窓に『雷 スマホ 撮影』と打ち込むと、意外と多くの紹介記事や写真家のブログがヒットした。

「へぇー…… あ、お前のスマホ新しく買い替えたんだろ?」

 まさか、とちょっと嫌な予感がした。

「そっちのスマホでやろうぜ」

「えぇー……」

 僕はちょっと渋るような声を出して、スマホをカバンに仕舞おうとする。

「ちょ、なんだよノリ悪ぃな!」

 拗ねて椅子の上で胡坐をかきだした奴に嘘だよ、とあきれながら自分のスマホを取り出した。先に調べていた友達のスマホを覗き込みながら、手順や設定などに目を通す。意外と簡単な工夫で、屋内でも写真は撮れそうだ。もしや土砂降りの中、ずぶ濡れで撮るかもしれないと思ったが杞憂だったようだ。

「えっと…… これか? あ、いやこっちかな」

「おいおい、機械音痴か~?」

「じゃあやってみてよー」

「こんなもん、簡単に…… えっと、この設定どこだ」

 お前もじゃんか、と笑った時だった。

「「うわっ!?」」

 放課後の教室を炸裂するような白い光が照らした。僕たちの驚きの声をかき消す腹の底まで響く轟音が間もなく教室を揺らす。

 隣の隣ぐらいの教室からだろうか、残っていた女子生徒と思しき悲鳴が上がった。

程なくして、教室の窓には大粒の雨が叩きつけるように降り始めた。声も出せないまましばらく口を開けていると

「わぁー!?」

 と言って友達が突然席から立ち上がった。

「な、なんだよ」

「今のやつ撮りたかったー!」

 僕は思わず吹き出してしまった。

「折角の雷チャンスが……」

「そんなに雷好きだったっけ?」

 おうよ!と言って、友達は自分の頬を指さした。

「ちっちゃい頃からここに石が出来てたんだけど、なんか稲妻みたいでカッコいいだろ? 確かトパーズって石! そういや、お前の石も黄色っぽいよな? もしかして同じ石?」

「僕のはシトリンだから、似てるけど違うやつだね」

 と言って僕は左腕を捲った。袖の下からはオレンジに近いような黄色をした石が顔を出す。

「へぇー…… 似てるけど違うんだな。でもそっちも雷みたいじゃね?」

「そうかな……」

「お、もしや俺たち雷鳴コンビか?」

 ニッカリと笑った友達の口元から白い歯が零れる。

「何? 中二病?」

 とからかうと、

「なんだよー中二病かもだけどカッコいいからいいだろー」

 と言って友達は頬を膨らませている。

 その時、再び教室を白い光がのみ込む。音は今回はすぐにはならず、数秒経ってから遠くの方でゴロゴロと先ほどより控えめに響いている。

「あー!また逃したー!」

「じゃあ構えてよっか」

 友達は「次こそは撮る……!」と息巻いている。僕もその隣で窓の外を眺めるのだった。

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