高度20000メートルの神様

三題噺:「神様」「迷信」「楽園」③


神様を感じる瞬間がある。

それは、空の上。


高度、20000メートル。

前後左右、全てが青に包まれる。音は消え、身体を痛め付けるGも、フライトスーツも、握ったはずの操縦桿も消える瞬間。

薄い空気で飛ぶための機速はマッハを超え、何もなくなる。

狂おしいほどのスピードと対照的に、時間が止まったかのような瞬間。

この世の中に、一人になる時。


これが神か、と思う。

「これ」が何を指すのか、自分でも説明がつかない。

ただ、ああこれが神なんだと思うのだ。


地上に居る時には、迷信程度にしか感じない神様。

神社に行けばいるかもしれないという程度の、自分とは切り離された存在。


それが空の上では、この身を包む全てが神様なのだと思ってしまう。

いや、この身体すらも神の一部なのかもしれない。


高度20000メートルを超えると、神様を感じる。

そして楽園を見る者もいるらしい。


私は見たことがない。そして、この先見ることもない。

楽園の香りを感じたら離脱。そこは私の行く場所じゃないから。


楽園を見たものは帰って来ない。


私は帰らなければならないから。

重力で縛られ、神様を感じない地上の楽園に。


青く輝く大気。

はっきりと丸みを帯びて眼下に広がる大地と海。


私はこの翼で神を感じ、

そして圧倒的に一人で、

絶対的に全て。


頭上には宇宙。

そして月。


どこまでも飛べそうで、

目を閉じてそのまま、

なにも持たずに、

神様に抱かれて、

散っていく夢。


それは叶わない。

楽園の前から離脱し、地上へ。

神様が迷信になる世界へ。


それでもあそこは私にとっての楽園だから。



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