【掌編集】ちいさな世界

はな

地獄計画

三題噺:「地獄」「幻」「伝説の大学」



ぷん…と漂う硫黄の臭い。

ふつふつと地底から湧き上がる蒸気が当たり一面を覆い、その視界を隠す。

これが地獄と言うものか。


「ここに!幻の!あの伝説の大学を!作るのだ!!!」


隣で大声を上げながらガッツポーズを決めたタカシに、わたしはそっと一歩離れた。

ああ、嫌。せっかく長崎まで温泉旅行に来たのに、この雲仙地獄は、簡単にタカシを創作の世界へと誘ってしまった。

こういうの好きそうだとは思ってけど、予想以上だ。彼はわたしの存在を覚えてるんだろうか?


「地獄で学園ものとか、面白そうだろ!?」


あ、覚えてたんだ…。

でも今は話しかけて欲しくないや。他人のふり、他人のふり。


「学園の名物は温泉卵!」


うん、そうなるだろうね…ていうか、すごく平和な地獄だよね。


「幻だからな、只人は辿り着けないのだよ!」


うん、いいと思うよー…。

わたしは辿り着けなくていいやー…。


今度の旅行はもっとこう、俗世にまみれたところにしよう。そうしよう。



END

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