花街の魔女

三題噺:「神様」「迷信」「楽園」②


魔女って迷信なんだって。

無理もないよね、魔女って本人しか知らないことだから。

わざわざ、わたし魔女なんだよ! なーんて吹聴して歩かないし。


「でね、木の葉ちゃん。蜜の香ちゃんは神様なんて迷信だ! って言うの」


今日遊びに来てくれた風鈴ちゃんは、そう言ってぷーっと頬を膨らませている。

どうも、蜜の香ちゃんに神様を迷信だって言われて喧嘩したみたい。


「迷信って? 魔女みたいな?」

「そう。花街には、花竜がいるから神様も魔女もいないんだって」

「ふぅーん」


神様かぁ。どうなんだろう。


「でも、わたしはいると思うよ」


だって現に、魔女はここにいるしね。

この街に魔法の力を全て与えてくれてるのは花竜だけど、それだけで神様がいないってことにはならないよ。


「そうだよね!? さすが木の葉ちゃん!」


うんうん、わたし魔女だからね。

よっし、花竜の力を分けてもらった魔女の、とっておきの魔法でも使おっかな!


「風鈴ちゃん、紅茶飲む?」

「うん、ありがとう!」


火にくべたやかんから吹き出す蒸気。

美味しい水になるように、わたしの気持ちをそっと込めて。

茶葉は、花竜の森で育てたものだからね。

そして、香り付けは木苺で。


「お待たせ、風鈴ちゃん」

「はぁぁ、いい香り〜」


ついでに、昨日、蜜の香ちゃんから貰った蜂蜜をとろりと入れて。

甘い香りには、すこうし甘い味が合う。

神様って、花竜のことだと思うんだよね。でも、風鈴ちゃんは花竜と神様は別だって考えてたみたいだから。

昨日の蜜の香ちゃんの顔が思い浮かぶ。


「ちゃんとお話ししたら、意外と蜜の香ちゃん、神様信じてるかもよ」

「そうかな? はぁ〜美味しいねえ、この紅茶」


風鈴ちゃんの顔がとろけた。まるで楽園にいるかのような顔。

ふふ、魔法にかかったかな。


「だって会ったことないんだから、どんな神様なのかわかんないもん」


みんな自分とは違う姿の神様を想像してるかもよ?

そう言ったら、風鈴ちゃんはふうっと息を吐いた。


「そうだね。あんなにむきにならずに、お話聞いてれば良かったな」


ばいばいと手を振った風鈴ちゃんは、真っ直ぐに蜜の香ちゃんの家を目指す。

わたしは魔女、これくらいお手のものよ。

迷信だって思われてても、わたしはわたしが魔女だって知ってるからいいの。

神様かどうかはわからないけど、わたしは花竜から魔法をもらったから。


「今度は、クッキーにしてみようかな」


花竜に教えてもらった魔法をひとつずつ。

わたしは魔女、みんなを魔法にかけている。







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