赤い闇

三題噺:「神様」「迷信」「楽園」


目の前の全てが燃えている。

夜の闇。その闇を赤く染め抜く炎。


「どうして……」


揺らめく赤い闇が、この世の楽園と謳われた故郷ふるさとを飲み込んでいく。

その豊かだった緑も、整った街並みも、明日を信じていた人々の夢も。


山が火を吹くなんて、迷信だと誰もが思っていた。

だってそれはここじゃなく、どこか遠くの大陸の話で。こことは関係のないことだったから。

火を吹く山は、煙が出ているのだと言われていたから。


「神様……助けて……!」


どうしようもなかった。

人の力は弱い。わたしはこんなにも無力だ。何も出来ない。何も!

熱風が肌を焼く。


「神は誰も救わねぇよ」


わたしの肩を、大きな手が叩いた。

振り返らなくても、誰かはわかる。


「神なんてのは、いないか、いても黙って見てるだけさ」


赤い闇が踊る。

そうだ、神様がいるなら、どうしてこんなことをする?

誰が、罰せられるようなことをした?

それとも生贄でも欲しているの?


「人は、自らを救うしかねぇんだよ」


今ここに神様がいないなら。

何も、誰も救ってくれないなら。


「……わかった。神様に祈るのはもうやめるわ」


この光景を忘れない。

この、全てを覆い尽くし、飲み込んだ赤い闇を。

わたしは、わたしたちは自らを救う。何も救わない神なんか捨てて。


「行くぞ」


その声に頷き、踵を返す。

さようなら、迷信で滅んだ、地上の楽園だったわたしの故郷ふるさと

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