本屋、航空コーナー
帰り道、本屋に寄った。
目的は、航空コーナー。
飛行機? まぁ、好きといえば好きだけれど、別に航空関係の雑誌を買うほど好きなわけでもない。せいぜい、一回くらい航空ショーを見てみたい、程度だ。
それがなぜ航空コーナーに行く必要があるのかと言われれば、単に資料として必要だから、という浪漫のカケラもない答えになる。
でも、航空コーナーってやっぱり、男性誌の近くなんだな。その上、鉄道モノと一緒になってしまっている。
そんな鉄道・航空コーナーの前には、男性の姿が一人。
やりにくい。別にマニアではないんだけど、そう思われるだろうなぁ。
とはいえ、必要なものだし……。
そっと男性の後ろから手を伸ばし、航空雑誌を一冊抜き取る。
とりあえず中をめくる。
そこには、F-2戦闘機バイパーゼロが。
あぁ、うん、かっこいいもんだなぁ。としか思わないけれど。
重要なのはそこではなくて、今の場合、どうやって飛行機が飛ぶかっていうところ。そもそもエルロンやラダーってものはどこについているのかすら知らないわけで、そこが知りたいんだけど。
「あの〜」
やっぱ、載ってないよなぁ。こんな雑誌買うのマニアだもんなぁ。
マニアだったらほら、そういう基礎っていうの、詳しそうだし掲載する意味ないだろうしな〜。
「あの、ちょっと……」
やっぱ資料にはならないかぁ。いやまあ、でも外見も重要だしね。
「ちょっとシカトですか」
「え、は? わたし?」
顔を上げると、わたしを見下ろす男性が一人。周りに他に人はいない。
「あなたしかいませんけど」
「あ、ごめんなさい……ていうかどなたですか?」
その男性は、全く見も知らない人だった。年齢は同い年くらいか? 異様に背が高い。
「あっ、僕、松尾といいます」
「はぁ」
「飛行機、好きなんですね?」
「え? いやっまぁ嫌いじゃ……っていやいや、言うほどじゃないですから! お気になさらず!」
まずい、マニアと思われたか!?
「謙遜しなくても」
いや、してないし!
「いや、僕ね、こう見えてパイロットなんですよー。飛行機とか乗ってみたくないですか? 僕操縦しますし、乗ってみません?」
「嫌です」
「にべもないですね」
「怪しいですし。ちなみに行き先は?」
「あの世」
「……それ、言わない方がいいですよ。誰も乗ってくれませんから」
まあ、言わなくても誰も乗らないだろうケド。怪しさ満点だし。
変な人。
「いやいや、もう、困ってるんですって。死神の商売上がったりです」
そっちか。
というか死神って最近は飛行機に乗るんだー。へえー。
「最近のお年よりは飛行機に乗りたがらなくて。便利なんですけどねえ、わかってもらえないんだよなぁ」
ん〜。そうだろうなぁ。
「ちなみに、旅客機?」
「いや、僕ね、バイパーゼロ! 君さっき見てたでしょ。かっこいいっしょ!?」
「……」
無理だ、お年寄りを戦闘機に乗せようとか。
「とりあえず、これ、どうぞ」
自分のためにと先ほど本棚から取っていた本を、とりあえずわたしは彼へと差し出した。
題名は、『あなたにも出来る!トップセールスマンの極意』。
「え、なんで?」
「いや、なんかもう、読めって感じで。今ホラ、見るからに怪しいというか、そりゃあ商売上がったりになるわ、って感じだし」
「えー」
なにその不服そうな声は。
「僕、減給されちゃうよ・・・」
ぶつぶつ言いつつ、彼はしっかりと本を受け取ってレジへと向かった。死神に減給とかあんのかな。
とりあえず、わたしは手に持っていた雑誌を本棚に戻した。
こういう専門書は、やっぱちっさな本屋にないだろうし。最近は戦闘機に乗る死神が出没してるんじゃあねえ。
ネットで探そうかな。うん。
「さ、帰ろっと」
END
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