共に生きる誇りを背負う
三題噺:「曇天」「引き金」「零れる」
キャノピーを叩く雨粒が激しくなった。
曇天が目の前に広がり、視界がただ灰色に染まる。
雲の中は、幼い頃に夢見たほど美しくはない。それがこんな曇天なら尚更。
操縦桿に伝わる振動が、雲の中の気流の乱れを伝えてくる。しかし、それも一瞬のこと。
頭上に光が零れる。それとほぼ同時に開ける視界。青。どこまでも青。
すぐ横に僚機が見える。青い洋上迷彩のF-2だ。
眼下が灰色のこの場所では役に立っていないものの、この国独特の洋上迷彩は美しいと思う。
松島第4航空団第21飛行隊。それが今の自分の居場所だ。
9年前、2011年3月11日、2mを超える津波に襲われた松島基地。そのまま冠水していく様子を、テレビ越しに見ているしかなかった。
被害状況は最悪。駐機場と格納庫に駐機していた戦闘機、練習機、救難機など28機すべてが水没。その水没していく様子は今でも目に焼き付いている。
まさか、その後自分が松島の空を飛ぶことになるなんて。
引き金はなんだったのだろう。やはり震災だったのか。
自分が夢見たものが、あまりにも無残に押し流され、破壊される。その現実に頭が付いて行かなかった。
その後の被害は、もはや理解をこえてしまった。
それでも、やはり海の上を飛ぶと美しいと思う。そのための洋上迷彩は、誇りだ。
この国は、海とともに生きている。洋上迷彩を背負って飛ぶ自分も、また。
打ち負かすのではない。どこまでも青の空と海と共に生きる。そのために自分たちがいるのだ。
この戦闘機は、守るための翼。攻撃をする為ではなく。
さあ、そのために始めようか。ドッグファイトという、守るための訓練を。
END
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