エピローグ そして舞人たちは

 平日の今日は、一学期の期末試験が終わって、学校も試験休みに突入。

 それでも舞人は、いつもの喫茶店で、優香里と凛々と待ち合わせをしていた。

 絵画のバイトは終わったけど、新たなバイト募集があって、三人は参加するつもりだ。

 初夏の空気に汗をかきつつ喫茶店の扉を潜ると、アイドルと凛々が、手を振って呼んでいる。

「あ、一条くん、こっちこっち~!」

「一条さ~ん。と、凛々も手を振るのでした~」

「はぁ、はぁ…遅くなって、ごめんね」

 途中で自転車がパンクしたので、自転車屋さんへと修理ついでに預けて、舞人は走ってきたのだ。

 休みだから、平日でもみんな制服姿ではなく、私服だ。

 舞人はジャケットと白いシャツとジーンズという、ラフだけど清潔感のある格好。

 凛々は、薄いピンクの可愛いワンピースで、鍔の広い帽子もセット。

 そして優香里は、舞人も予想していない姿だった。

「優香里ちゃん…コスプレ?」

 いつもの席に着きながら、思わず尋ねる。

「え、なんで? いつもの恰好だけど」

 学校での清楚な立ち居振る舞いや、おしとやかな所作からは想像もできない、なんとパンクな優香里だ。

 髪はいつものポニテだけど、白いシャツは蛇の模様で短くて、へそ出しどころか短いタンクトップ。

 その上に羽織っている上着は、やっぱり短くて黒い革製で、袖なしで艶々。

 ボトムは股上の浅い黒艶なショートで、足下は黒いレザーのブーツだった。

「恰好ヨイでしょ? えへへ」

「って言うか…ちょっと大胆な気がする…」

 ミニTから覗く谷間は結構な深さで、引き締まった腹部や縦長のおヘソも、完全露出。

 ボトムは、丸いヒップも覗けそうな、ちょっとぶかぶかなショートパンツで、サスペンダーで吊っているとはいえ、キツ目が好みな優香里には珍しい。

 しかも上下が短いから、おヘソのちょっと下の肌までが露出していて、艶々としている。

 ここはやっぱり女の子らしく、ピッタリフィットよりも可愛いルックスを優先したらしい。

 綺麗なラインの脚は、ムチムチの付け根からキュっと細い足首まで剥き出しで、健康的な張りを、惜しみなく魅せ付けている。

 男子としては、目のやり場に困ってしまう、嬉しい恰好。

 でも他の男子たちに見られるとか思うと、ちょっと悔しい恰好でもあった。

「い、意外な恰好だけど、確かに絶妙のミスマッチ……あぁっ!?」

 目の前の席でアイスティーを飲む優香里を上下から見て、舞人の脳裡を、いつぞや公園で見かけた女の子が過った。

 約二か月前の、あの時。

 舞人のラクガキを背後からチラと見て去った女の子と、目の前の優香里のパンクな恰好は、たぶん同じ。

「もしかして優香里ちゃん、公園で…」

「あ、覚えてたの?」

 あの日、優香里は公園で舞人のラクガキを見て、その色のセンスに感心したらしい。だけどバイトの追加募集そのものは、その後だったという。

「だから学校で一条くんを見つけた時は、すっごく驚いちゃったわ。なんていうか、もうバイトするためのタイミングっ! とか思っちゃった!」

「そうだったんだ。僕も公園で見かけた時は、優香里ちゃんだなんて思わなかったよ」

「凛々も~、優香里さんの私服を初めて見た時は~、それはそれは驚きました~。と、凛々は思い起こすのでした~」

 そんな話をしていたら、約束している面接の時間が迫っていた。

 面接と言っても、三人は事実上「再契約」だけだから、挨拶に行く。程度だ。

「大変、そろそろ行かなくちゃ!」

 そう言って立ち上がった目の前の優香里に、舞人はこれまでで最大級の衝撃を受ける。

「そうだねっ–あわわっ!!」

 急いで席を立った優香里は、なんとそのまま「パンすと」ハプニング。

 黒いショートボトムが、ストんと膝まで脱げただけでなく、以前にアイドル自身が言っていたように、白いショーツまで滑り落ちたのだ。

 短い上着とシャツだけの、ヘソ出しスタイルな優香里。

 だから下の二つが「パンすと」すると、下半身はネイキッド。

 そんな光景が、舞人の目の前に爆誕したのだ。

「っ–っひゃああぁっ!!」

 気づいたアイドルが、慌てて座り込んで、ショーツとボトムを引き上げる。

 耳まで真っ赤になった優香里が、困惑と怒りのような羞恥の美顔で、舞人をジロと見た。

「………見た…?」

「え、えぇっとっ–ごごごっ、ごめんなさいっっ!」

 たぶん一生、忘れないであろう光景が、脳いっぱいに膨らみながらも、素直な少年は超速土下座。

 そんな恥ずかし空気をモノともしない、凛々。

「まあぁ~。優香里さん、一条さんに見られちゃう、大エッチハプニングです~。と、凛々は恥ずかしいのでした~」

「うぅ…! な、なんで~…?」

 言われて、素直に俯くアイドルだ。

 どうやら、ボトムを吊っていたサスペンダーが、いつのまにか外れていたらしい。

「………一条くん…解っていると思うけど…」

「はっ、はいっ! 決して、一生涯、口外いしません!」

 アイドルの怒りフェイスに、震えながら食い気味で誓う舞人。

 だけど、そんなアイドルの美顔もやっぱり綺麗で可愛いな、と舞人は思った。


 新しいバイトも、宇宙に絵画を描く事だった。

 今度は別の惑星からの依頼で、絵画は葛飾北斎の「富士山」で、その中でも最も有名な「神奈川沖浪裏」である。

 絵画のサイズもタトスの時より大きくて、なんと別の星系の支社の人たちとの、共同作業だという。

「あ、新たな宇宙人との遭遇…!」

 そんなで明日に、期待感でドキドキな舞人だ。


 三日後の放課後。

 三人は副所長の操る宇宙船で、一万光年離れた宙域へと到着。

「さぁて、頑張りましょ~!」

「「お~!」」

「あ、地球星人の人? よろしく~」

 新たに知的生命体と出会い、協力しあって宇宙空間に絵画を描いてゆく、少年少女たち。

 漆黒の空間に色を撃ち出しながら、舞人は「いつか自分の絵を宇宙に描きたいな」と思った。


                        ~終わり~

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比喩ではなく物理的に宇宙(そら)のキャンバス ~トンデモ舞人くん!~ 八乃前 陣 @lacoon

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