音楽でしか生きていけない。

作者 聖願心理

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★★★ Excellent!!!

《ネモフィラと瑠璃》ネットを騒然とさせた二人組の音楽ユニットがこつ然と姿を消した。世間はあっというまに彼女らの音楽を忘れ、新しい音楽に関心が移っていく。
けれども「私」だけは、あの旋律をいつまでも忘れられずにいた。ヘッドフォンに閉じこもり、その曲ばかりを繰りかえし流し続ける。音に酔って頭が痛くなってもやめられない。音楽を手放せない。

「私」にとって、あの音楽は《言葉》だったからだ。


……なんて素敵な青い春なんでしょうか。
読みはじめたときはなみだのような青さが文章のあちらこちらから感じられて、読み進めるごとにそれは傷からインクが溢れだすようにぽつぽつと浸みだし、最後には晴れた空の青さに替わりました。
音楽を言葉だというその真意。ぜひとも読んで確かめてください。

最高の青い春を、読ませていただきました。

★★★ Excellent!!!

言葉である歌を失った少女は、立ち入り禁止の屋上でヘッドフォンをはめて音に溺れる。
けれど、その屋上の鍵はあってないようなもの。
ヘッドフォンもノイズキャンセリングで外音を完全に遮断しているわけじゃない。
もう、気づいて欲しがっているようにしか思えない。
そこに現れた少年は、彼女に歌って欲しい言う。
差し伸べられたその手を取り、事情をうちあけた上で前へと進むこともできたはすだ。
けれど、彼女はそうできない。奇跡を信じられずまた殻に閉じこもろうとしてしまう。
正直めんどくさくはあるけど、それは彼女の傷の深さを物語っているようだし、血が通って感じられる。
そうして一度拒絶があり、ヘッドフォンをつける頻度が減っていく過程がさらりとした描写ながら書かれいるからこそ、瑠璃の石言葉である「真実」が重みを帯び、それを肯定するかのような「音」は力強く響く。

★★★ Excellent!!!

 とても優しい小説、読み終わった時に抱いた感想は意外とシンプルだった。それでも、心に残るのは長編を読み切ったかのように濃厚な熱。

 この作者さんが書く世界はいつも寂しさの中に優しい暖かさを感じる。それが私にはとても心地いい。思わずその世界に入り込んでしまう。

 一万文字にも満たない短い文章の中で物語がしっかりと息をしていた。それは本当に難しい事。描写が減ればそれだけ感情移入しにくくなるというのに、これは本当にすごい才能だと思います。

 短編だと侮るなかれ!
 聖願心理ワールドへ飛び込め!

★★★ Excellent!!!

高校屋上が舞台。ヘッドホンを耳にあてがい「わざと」ますます自分を孤に追い込む女子高生が一人。
彼女が聞き耽るそれは『ただの流行の音楽』ではありませんでした。
彼女にとって大切な……。

そこに現れたのは男子生徒、それも後輩だそう。
名乗った彼は唐突に『依頼』をします。

初めましてなんでしょ? なんでそんなことを言うの?
彼女のことを知りもしないで。そっとしておいてあげて。
心の傷を癒すには音楽が一番なのだから。
そう、癒すはず、なのに彼女は癒されるどころか……。

バラバラだったピースがかちり、かちりときれいにはまっていく爽快感。
とっても切ない物語。だけど読後感はまさかに爽やか。

至極のアオハル物語を堪能させていただきました!

★★★ Excellent!!!

昔から、「何か」で負った傷は、その「何か」でしか癒せないと言いますが、この作品はまさにそれだと思いました。

心の支えであった人とモノを一気に喪失してしまった律葉。その前に現れたのは、律葉が喪失したモノと人を知っている後輩、翼であり……。

なんて、文才のある人だろう、と作者のことを考えました。
繊細で丁寧な心理描写。
透明感のある瑞々しいことばで紡がれる「喪失」。そして、ひとすじの光。
心に一つ一つのことばが突き刺さるようでした。

一番素晴らしいと思ったのが、主人公の心の揺れです。
ここですぐ翼君の提案に「ハイ!そうだね!!!」とは肯かないのです。なぜなら、それだけ音楽を愛しているから。音楽が好きで好きで、心の支えで、だからこそ、うしなったとき、心が氷に閉ざされてしまって。
その氷は容易に溶けることはありません。

だから、
――――これは、私と蓮の曲。そして、私と翼くんの音楽だ。
ということばに、胸が打ち震えました。
真っ青な空。羽ばたく鳥。

名作だと思います。皆様に読んでいただきたいです。

★★★ Excellent!!!

 とても心を動かされました。

 『ネモフィラと瑠璃』は二人で音楽を作り、世に出していたアマチュアユニットです。歌唱担当のネモフィラこと律葉は、とあることがきっかけで歌うことができなくなり、心を閉ざしています。音楽という自分らしい表現を失い、苦しんでいる律葉の苦しみが痛々しいほどに刺さります。
 そこに現れた翼が律葉に歌ってほしいと願ったことで、律葉の世界が少しずつ変わっていく。彼女の語る言葉から、音楽が自己表現の手段であり、相方の瑠璃との繋がりであり、かけがえのないものであったことがよくわかります。繊細な心の機微、心に傷を負ったものがそれでも音楽から離れられない因果。私自身にも思うところがありますが、それを抜きにしても苦しくて、切なくて、業のようなものを感じる小説だと感じました。

★★★ Excellent!!!

タイトルにもあるように、『音楽でしか生きていけない』んです。

音楽が出来なくなったら、もう生きている意味なんてないってくらいに純粋に音楽が好きなんです。そんな人が突然音楽を奪われたら……。

これは創作家にとって、他人事ではないことのように思います。

この作品には、敢えて(と私は思いました)最後まで曖昧にしてある部分があります。それがなんだか曇り空のようでいて、でも最後のシーンでは主人公=律葉さんに確実に光が差し込んでいた。
逃げ出したくなるようなギリギリの境界で、それでも律葉さんは救われていた。音楽で生きたいと言う願望によって。

終始晴れ渡った青春じゃあなくって、雨上がりに雲の隙間を縫って光刺すような青春の方が『小説でしか生きていけない』人は共感出来る。そう思いました。