繋がりと変化の物語

「人を笑顔にしたい」という共通の目的をもちながらも、別の道を歩んでいる兄弟、YOSSY the CLOWNと柳田良二。
自らの夢をもちながらも自信を得ることができない、服部若菜と小田蜜葉。
人の心をも読みとる高い知性をもって生まれたがゆえにその立場に怯える兄妹、サミュエルとエノーラ。
この物語は、別の場所、別の時間に生まれた六人がSHOWという一つの舞台を中心として結びつき、それぞれの未来を見つけていく物語である――。

本作の作者、佑佳さんは私の友人である。親友といっても過言ではない。そんな彼女は多くの長編傑作を執筆してきた実力のある作家なのであるが、特にこの作品「C-LOVERS」は彼女のライフワークともいえる作品であり、今回完全版の封切りとなった。そうであれば読みにいかない理はない。20年の歳月をかけて一つの作品はどのような形に仕上がったのか、と大きな期待とともに作品を楽しませていただいた。
筆者はSNSや小説サイトを使って、多くの作家との交流を大切にする人物である。本作は佑佳氏らしい、というか、佑佳氏そのものだったのではないかと思えた。

まず簡単なあらすじに書かせていただいたとおり、本作のテーマは「結びつき」や「繋がり」であると思われる。異なる立場にある六人がふとした縁や意思によって結びつき、それぞれの役割を見つけていく。その中ではこれまでの人生で感じてきた恐れやトラウマのようなものがなかなか抜けず、キャラクターたちは苦しんだり怖がったりしながら相手と接していこうとする。火付け役となるのは、世界的に有名なパフォーマー、YOSSY the CLOWNだ。しかし彼はわかりやすい「主人公」という立ち位置ではない。彼が火をつけた先では、サムエニ(サミュエル&エノーラ)、若菜、蜜葉、そして良二が自らの意思で、手探りながらもキャラクター同士の関係を結んでいく。だからこの作品は全員が主人公なのだといえる。すばらしいのは、『誰 対 誰』という全ての関係を書ききっていることだ。たとえばYOSSY the CLOWNを中心として、放射状に人間関係を描くという手もあっただろう。だけどそれは、一人の人間が目立つだけであって本作のテーマを体現することはできない。そこで作者は丁寧に、一人一人のキャラクターと向き合いながら全ての人間関係を書ききった。これはキャラクターへの深い愛をもった作者ならではの技であると感嘆せざるをえない。読者は全てのキャラクターの視点を有し、全てのキャラクターと向き合うことができるだろう。その中で、人間は連鎖でできているという真実を見つけることが可能になる。

だからこの作品は完璧なヒューマンドラマだと呼べるのだが、このドラマというのは時に読者に重さを感じさせてしまうことがある。しかし本作に限り、読者はストレスを覚えることはけしてないだろう。そのヒントは筆者による作品紹介にある。

「前半は群像的ラブコメ調子のドタバタ劇。
後半に行くほど赤面不可避の恋愛ストーリーになっていきますので、その濃淡をご期待くださいますと嬉しいです。」

つまるところ、全編を通じてライトさ、楽しさというものが敷設されているのだ。これは実際に読めばわかる。特に恋愛パート(恋愛そのものでなくても、恋愛に至る過程のひとコマであっても)においては、読んでいるこちらが恥ずかしくなってしまうようなせりふ回しが展開される。このせりふ回しは筆者の大きな力量の一つなのだと感じられる。もちろん実力のある作者なので、地の文における動作表現や風景描写も高レベルなものを書いてくれる。加えてこと人間関係をせりふで表す際には、(よくこんなせりふが出てきたな!)とこちらが驚くばかりのハイテンションが展開されている。まるで目の前でキャラ同士が喋り倒しているような。そんなやりとりは本作の大きな見どころだ。そういえば筆者は高橋留美子のファンだと聞いたことがあるが、この漫画的やりとりというのをうまく小説において表現できているといえるだろう。他作との差別として、注目すべきポイントであった。
私は本作のレビューを書くにあたり、「繋がりと変化の物語」というタイトルを設けた。しかし小説的楽しみという面に目を向けると、本作は「驚きと照れの物語」という顔を見せてくれるだろう。

だから を だァら と 言い出したら、佑佳劇場の始まりです。
カツ丼 を カツだっ と 言い出したら、佑佳フルコースの始まりです。

人と人は繋がって生きているのだと、なにより実感させてくれる物語である。
そして繋がりや互いに変化をもたらすのだと教えてくれる物語である。
ちなみに佑佳さんの他の作品を読んでいる方にはちょっとしたご褒美のような「繋がり」も隠されている。その繋がりを探してみるのもおもしろいだろう。

読了後、筆者が本作をライフワークとしたわけがよくわかった。
本作は、佑佳さんにとって人生そのものなのだろう。
そしてライフワークとして構築された本作が、筆者に新しい化学変化をもたらしていく。
その起点となるであろう集大成の一作を、ぜひ一人でも多くの読者に読んでいただきたいものだと願うばかりである。

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