この作品を読み始めた時の第一印象は「奇抜」の一言だった。
というのも、OPENING act を読むと分かるが、この作品が小説兼「舞台」に思えたからだ。私たち読者は、いわば「観客」ということになる。
臨場感あふれる冒頭に魅了され、読み進めていくと、登場する主な「役者」は6人の男女。
話が進むにつれて明かされていく彼らの境遇は、決して恵まれているとは言えないものだろう。そして、その境遇であるがゆえに抱えたコンプレックスは、とても根深いものだ。
時にそのコンプレックスは、同じような悩みを抱えた「観客」たちの心を揺さぶることもあるだろう。かく言う自分もそのひとりだった。克服するには、自分から踏み込んでいく勇気が必要……と、頭では分かっていても、実践するとなると簡単には出来ないものだ。
だからこそ、彼らにより共感することが出来たのかもしれない。
時間をかけながらも、彼らはそれぞれ、自らのコンプレックスに向き合い、克服しようとする。共通するのは「ひとりで」ではなく、「みんなで」向き合っていくこと。改めて人との繋がり、絆が大切だと思わされた作品だ。
次に彼らの舞台に魅了されるのは、そこにいる「あなた」かもしれない。
あなたが辛いと思った時、笑いたいと思った時……舞台の「観客」として、客席に足を運んでみてはいかがだろうか?
Clap your hands!
あなたも彼らと一緒に、 It's Show Time!
「人を笑顔にしたい」という共通の目的をもちながらも、別の道を歩んでいる兄弟、YOSSY the CLOWNと柳田良二。
自らの夢をもちながらも自信を得ることができない、服部若菜と小田蜜葉。
人の心をも読みとる高い知性をもって生まれたがゆえにその立場に怯える兄妹、サミュエルとエノーラ。
この物語は、別の場所、別の時間に生まれた六人がSHOWという一つの舞台を中心として結びつき、それぞれの未来を見つけていく物語である――。
本作の作者、佑佳さんは私の友人である。親友といっても過言ではない。そんな彼女は多くの長編傑作を執筆してきた実力のある作家なのであるが、特にこの作品「C-LOVERS」は彼女のライフワークともいえる作品であり、今回完全版の封切りとなった。そうであれば読みにいかない理はない。20年の歳月をかけて一つの作品はどのような形に仕上がったのか、と大きな期待とともに作品を楽しませていただいた。
筆者はSNSや小説サイトを使って、多くの作家との交流を大切にする人物である。本作は佑佳氏らしい、というか、佑佳氏そのものだったのではないかと思えた。
まず簡単なあらすじに書かせていただいたとおり、本作のテーマは「結びつき」や「繋がり」であると思われる。異なる立場にある六人がふとした縁や意思によって結びつき、それぞれの役割を見つけていく。その中ではこれまでの人生で感じてきた恐れやトラウマのようなものがなかなか抜けず、キャラクターたちは苦しんだり怖がったりしながら相手と接していこうとする。火付け役となるのは、世界的に有名なパフォーマー、YOSSY the CLOWNだ。しかし彼はわかりやすい「主人公」という立ち位置ではない。彼が火をつけた先では、サムエニ(サミュエル&エノーラ)、若菜、蜜葉、そして良二が自らの意思で、手探りながらもキャラクター同士の関係を結んでいく。だからこの作品は全員が主人公なのだといえる。すばらしいのは、『誰 対 誰』という全ての関係を書ききっていることだ。たとえばYOSSY the CLOWNを中心として、放射状に人間関係を描くという手もあっただろう。だけどそれは、一人の人間が目立つだけであって本作のテーマを体現することはできない。そこで作者は丁寧に、一人一人のキャラクターと向き合いながら全ての人間関係を書ききった。これはキャラクターへの深い愛をもった作者ならではの技であると感嘆せざるをえない。読者は全てのキャラクターの視点を有し、全てのキャラクターと向き合うことができるだろう。その中で、人間は連鎖でできているという真実を見つけることが可能になる。
だからこの作品は完璧なヒューマンドラマだと呼べるのだが、このドラマというのは時に読者に重さを感じさせてしまうことがある。しかし本作に限り、読者はストレスを覚えることはけしてないだろう。そのヒントは筆者による作品紹介にある。
「前半は群像的ラブコメ調子のドタバタ劇。
後半に行くほど赤面不可避の恋愛ストーリーになっていきますので、その濃淡をご期待くださいますと嬉しいです。」
つまるところ、全編を通じてライトさ、楽しさというものが敷設されているのだ。これは実際に読めばわかる。特に恋愛パート(恋愛そのものでなくても、恋愛に至る過程のひとコマであっても)においては、読んでいるこちらが恥ずかしくなってしまうようなせりふ回しが展開される。このせりふ回しは筆者の大きな力量の一つなのだと感じられる。もちろん実力のある作者なので、地の文における動作表現や風景描写も高レベルなものを書いてくれる。加えてこと人間関係をせりふで表す際には、(よくこんなせりふが出てきたな!)とこちらが驚くばかりのハイテンションが展開されている。まるで目の前でキャラ同士が喋り倒しているような。そんなやりとりは本作の大きな見どころだ。そういえば筆者は高橋留美子のファンだと聞いたことがあるが、この漫画的やりとりというのをうまく小説において表現できているといえるだろう。他作との差別として、注目すべきポイントであった。
私は本作のレビューを書くにあたり、「繋がりと変化の物語」というタイトルを設けた。しかし小説的楽しみという面に目を向けると、本作は「驚きと照れの物語」という顔を見せてくれるだろう。
だから を だァら と 言い出したら、佑佳劇場の始まりです。
カツ丼 を カツだっ と 言い出したら、佑佳フルコースの始まりです。
人と人は繋がって生きているのだと、なにより実感させてくれる物語である。
そして繋がりや互いに変化をもたらすのだと教えてくれる物語である。
ちなみに佑佳さんの他の作品を読んでいる方にはちょっとしたご褒美のような「繋がり」も隠されている。その繋がりを探してみるのもおもしろいだろう。
読了後、筆者が本作をライフワークとしたわけがよくわかった。
本作は、佑佳さんにとって人生そのものなのだろう。
そしてライフワークとして構築された本作が、筆者に新しい化学変化をもたらしていく。
その起点となるであろう集大成の一作を、ぜひ一人でも多くの読者に読んでいただきたいものだと願うばかりである。
登場人物はほぼ、メインの6人のみです。6人だけ追っていれば大丈夫。ゲストは佑佳作品を知っていれば嬉しくなる程度で、知らないと話が分からない訳ではありませんよ。
6人はそれぞれ、過去に心の傷を負っています。何なら現在も尾を引いています。どうにかしたいともがく彼らが、お互いに『出会う』。
すると、変化していきます。傷を抱きながら、『仕事』を通して関係性を築いていき、ドタバタとデコボコしながら、いつしか気付くのです。
大切な人に。癒やされている自分に。前に現れた道に。
とにかく皆が、優しい。可愛い。本作あらすじにもあるように、コメディ→恋愛というストーリーのシフトが素晴らしく緻密で、1話から少しずつ重ねてきた気持ちが、ある時を堺に一気に開放されていきます。
全部解決します。本当に、魔法のように。自分の『価値』と、他者との『関係』。未来への『希望』。キーワードはこの辺りでしょうか。
読後、明るい気持ちになります。読んでよかったと心から思います。私は最後のシーンが大好きなのですが、あそこへ至る為には、やはり道中の彼らの物語は全て必要ですね。見事な構成、心理描写、そして台詞回し。丁寧に緻密に、長い時間を掛けて描かれたことは想像に難くありません。
けれど、ああもう少しだけ。
『あの漫才』を見ながらニヤニヤしたい気持ちもあります。
【物語は】
雑誌の特集に組まれた話から始まっていく。その後、成功への第一歩となるのだろうか。主人公の一人であるYOSSY the CLOWNが、インタビューを受けている場面へと変わる。この物語は、群像劇。
ここで、作中のあるセリフが胸を打つ。
「コンプレックスと上手く付き合っていくような(略)」のくだりのセリフにとても惹かれた。と同時に、このセリフ部分から彼のこれからの目標や、目的が明らかになる。それは輝かしいスタート。
しかし彼の成功(ソロデビュー)を喜んでいるものばかりではないようだ。意味深な場面からオープニングクレジットと移り、その後本編へ。
【各登場人物から見る、物語の魅力】
第一幕に入ると視点が変わる。
服部若菜という女性の視点から、YOSSY the CLOWNがどのような人物なのか明かされていく。この物語の面白さは、各登場人物がYOSSY the CLOWNに対し、どのような想いを抱いているのかというところにあると感じた。
服部若菜という女性は、YOSSY the CLOWNに対して憧れの気持ちを抱いている。その理由は、彼女が自身の笑顔に対し、コンプレックスを抱いているから。自然に笑えたのは彼の芸でのみであり、初めての経験だった。彼に憧れ弟子入りを決意し奮闘するが、あっけなく断られる。
しかし、必死に自分にできることを告げた時、あるワードが彼の心に引っ掛かった様だ。彼から”世界が認める凄腕マジシャン”を紹介してもらうこととなる。
彼女との出会いの中で、YOSSY the CLOWNは独特の話し方をする人物であると言うことがわかってくる。それが彼のスタイルであり、パフォーマンスの一つであるという事も。確かに彼は、人を楽しませることに長けている。それは、インタビューでのやり取りからも感じることが出る。しかし、本心では何を考えているのか分からないという印象も同時に持つ。シビアな一面も併せ持ち、仕事(パフォーマーとしての)へのプライドも感じられる。
【世界観・舞台の魅力】
YOSSY the CLOWNの活動理念は、『世界を笑顔で満たし、そうして美しく変えること』(引用)である。(詳しくは作中にて)
活動理念を見ると、とても志の高いパフォーマーであるという事が感じられる。しかし、世の中のいい人が性格までいい人とは限らない。
世の中、優しさだけでは自分の目的、目標を達成することが出来ない。これは当たり前のこと。どんな良いことであろうが、情だけではどうにもならないことがある。YOSSY the CLOWNは、人から憧れを持たれるほどに凄いパフォーマーだが、誰にでも愛されるいい人というわけではないのだ。
自分の理念を貫くために、情では動かない。そして当然、なんらかの恨みを抱いている人も現れる。人間ならば、誰にも嫌われずに生きるのは難しい。そして、彼が誰からも愛される”完璧な人間”というわけではないところに、ヒューマンドラマとしての面白さがあると思う。
どんなに優れている人であっても、その人物を好きな人もいれば、いけ好かないと感じる人もいて当然だということ。完璧だから愛されるとは限らない。そして、完璧に見えるからと言ってコンプレックスを持っていないとは限らないという事だ。人間らしさを描き、表現している。この部分こそが、この物語の魅力なのではないだろうか。
【物語のみどころ】
YOSSY the CLOWNという、魅力あふれるパフォーマーがソロデビューを果たした。その事で動き出す、歯車。彼に憧れ弟子入りを希望した女性は、笑顔にコンプレックスを抱えていた。彼のパフォーマンスにより自然に笑えたこと。自分のようなコンプレックを抱えている人々を笑顔にしたい、それが彼女の原動力だったのではないだろうか。
しかし、YOSSY the CLOWNもまたコンプレックスを抱えている。この物語は、あらすじにもある通り、コンプレックスを抱えた人々の群像劇である。
それぞれがそれぞれの悩みを抱え、目標を持ち、夢を持っている。そんな彼らは果たして、コンプレックスを克服し、自身の道を切り開くことが出来るのだろうか?
あなたもお手に取られてみませんか?
この先、彼らがどのように関りあい、どのような人間模様を展開していくのか。そしてコンプレックスを克服できるのか、是非その目で確かめてみてくださいね。お奨めです。
クールな道化師、彼に憧れ芸人を目指す女性、片付けの苦手な探偵、イギリス産まれの賢い双子、引っ込み思案な女子高生。
個性豊かな六人が織りなす、お仕事系ヒューマンドラマです。
ブランド服に身を包み、クールでスタイリッシュな芸風で世界を魅了する道化師パフォーマー、YOSSY the CLOWN。通称ヨッシーと呼ばれる彼のもとに弟子入りを希望し押しかけてきた、服部若菜という女性。
弟子入りをあきらめさせようと説得していたヨッシーは、彼女の「得意分野」に興味を持ち、とある人物を紹介することにします。マジックを教えてもらえるはずが、なぜか紹介された場所は古びた探偵事務所で――?
コミカルに綴られるストーリーが、いろんな角度から六人の関係性や、それぞれの過去、今の心情、隠された心の傷を少しずつ明らかにしていきます。
誰もが過去に縛られ、臆病にうつむきがちな心を隠していて。
けれど勇気を持って、明日に立ち向かおうとしている。
誰かの得意が、誰かの不足を補って、一人では成せない「大きな夢」を現実のものにしていく。
一人一人の不器用さや、優しさが愛おしい、癒しにあふれた物語です。
家族愛、友情、恋愛の要素も各所に盛り込まれていて、じっくりと浸れる群像劇風のヒューマンドラマ。ぜひ、ご一読ください。