ファイナル・デッド山本ピュアブラック純米吟醸

冒頭で全裸の凍死体が見つかる。よくあるが、だからこそ目を引く良い展開。そして尻には一升瓶が刺さっている。ん？　一升瓶？　全裸で尻に一升瓶を刺した姿が似合う女って何？　唯一無二の表現が踊る小説。

このレビューは小説のネタバレを含みます。全文を読む（474文字）

初手から顔面ストレートとは、まさにこのこと。
ぶっ飛んだ冒頭、奇抜でテンポ良くコミカルな会話、甘酸っぱい恋バナ……
一気に物語に引き込まれました。
また、語り手の女の子の抱える現状も、かなり胸に来るものがあります。彼女の台詞が可笑しいからこそ、余計に……。

結末にはびっくりしました。……いえ、よく考えたら、ずっとびっくりする展開の連続でした。でも、タイトルには何だか納得です。
とにかく、優しいお話でした。

物語の状況は結構緊迫していると思うのだけど、まるでそれを感じさせない。登場人物二人はどちらもどこか朴訥さを感じさせ、ともすれば重く暗くなりがちな背景も明るく軽快に見せてしまう。筆者様の才覚がキラリと光る一作です。

最初の掴みで、これもう読むしかないと思わせるんですよね。上手いです。
予想つかない展開も引き込まれます。

まずは読んでいただきたい。
果たして、君は1行目に書いてあることの意味が一読で分かっただろうか？
僕には分からず、二度見し、次に想像して、最後に噴いた。
哀愁漂うリズミカルな一人称。
突飛で思わず笑ってしまうと同時に唸ってしまう表現。
小説か？と聞かれたら否と答えると思う。
ヒロインの行く末を思うとハンカチが濡れてしまう。
医者に「あんた何したの？」と聞かれること思うと、哀れで……。
ブラギガスあきならぬピュアブラックしに幸あれ。

尻に純米吟醸を刺して死んでいる美女が開幕から飛び込んでくるとんでもない作品だと思って読み進めると、いつのまにか不器用な女の子と、なんでもできるしなんでも似合うが故に孤独な女の子の百合に巻き込まれます。
いったい何が起こったのかわからない…。
優しくて温かいまるで熱燗のような作品です。開幕のキレと最後にもキリっとくるオチでいい感じに「ふふふ…」となるすごい作品でした。

　あか、しろ、きいろ……綺麗に折りたたまれた紙風船。
　それをゆっくり開いて、銀紙に口を付ける。
　ふうっと息を吹き込んだら、いい感じに膨らんだ。

　冒頭１行までに何が行われたのか、これはすなわちそういうことで、それはつまり読者たる我々こそが山本なのである。
　さあ、想像してみよう。お尻の穴に息を吹き込む自分を。

　山本（＝我々）は空気の量を間違えてしまったために、彼女の菊は破裂した。
　しかし悲しむことではないだろう。彼女は万年フローラルな香り漂わせる稀有な体質を手に入れたのだから。

この二人の掛け合いたまらん。
冬の富山に降り積もった雪の下、そこには春を待つ凍死体があった。彼女は尺取虫よろしく尻を突き出し、そこに山本ピュアブラック純米吟醸を突き刺していた。
奇抜なだけじゃなくて、センスの光るユーモラスな作品。ここから何が始まるのか、ワクワクが止まらない。
是非一読下さい。