「山本ピュアブラック 純米吟醸」というのは実在のお酒で、山本合同会社という蔵元が作っています。白神山地の湧き水を直接蔵まで引き込み(!)、全ての工程においていわゆる「源泉掛け流し」状態で使用する全国で唯一の蔵元です。
ふくらみのある精悍で軽快な口当たりと、シトラスを思わせるスッキリとした後味が特徴の、伝統を踏襲しつつも挑戦的な、素晴らしい純米吟醸です。オーソドックスな味わいのお酒にちょっと飽きてきた方に特にオススメです。
さて、そんなお酒を不遜にも最低の使い方で登場させた本作ですが、こちらも基本を踏襲しつつ挑戦的な作品であると言えます。
一読して目に入るのは、まるで息継ぎをしていないかのように疾走感溢れる特徴的な文体なのですが、その実、構成は非常に正統派な印象を受けます。
序盤のフックで読者をつかみ、引きずり倒し、ラストシーンまであれよあれよという間に連れて行く。一万字近くある文字数を全く感じさせないその足運びは、白神山地の湧き水のように繊細で柔軟です。
とにかく軽妙な手触りが特徴的な作品で、それに身を委ねることができるなら、終始笑いっぱなしで読めると思います。
日本酒を片手に、肩肘張らず、軽い気持ちでどうぞ。