女性が訊ねて来るノックの音はいつしか遠い記憶へと誘うようだ。ふと、朧気に霞み掛けた女性たちの顔が浮かんでは消える。それは苦く、それでいて甘い。一話自体は短くも、女性との思い出やその性格がよく描かれていて、過ぎ去ったはずの女を未だ引きずる男の切ない未練心とも言い換えられるか。
別れたはずの女が部屋に訪ねてくる。その部屋がまた、付き合っていた頃の部屋いや、時代がそのころにもどっている。寝て起きたら、次の女の時代。女たちは「なにか言うことないの?」という言葉を残して入れ替わり立ち代わり訪ねてくる。不思議な体験が6人分。不思議にはもちろん仕掛けがあるわけでラストでタネ明かしがあるけれどほんのり匂わせた設定は明かされないまま余韻として残ります。味わいのある、大人風味の小説に仕上がっています。
男が過去を振り返り、儚くもどこか郷愁を感じさせる物語。男の意思とは無関係に全くランダムに訪れる過去が、男を困惑させる。謎解きの要素も魅力である。個人的に気に入ったのは地の文の背景描写だ。昔のビールや雑誌、店の名前など、知らなくても当時の空気を感じ取れた。まるでその場に自分も行ったことがあるように追体験でき、素晴らしいと感じる。何回か読み返したくなる秀作。
目を覚ますたびに、過去にお付き合いしていた女性が訪ねてきます。なぜなのか?ぜひぜひ最後まで読んでみてください。作者さまの人柄が知れるような、繊細でそれでいてしっとりとした雰囲気があります。毎話変わる女性もみんな印象が違う感じで、あなたの好みの人が出てくるかもしれませんよ。
もっと見る