青春の幻想が、ほどけるとき。君は名前を手に入れた。

誰もいなくなったはずの教室で、落書きノートに影がおちた。

このフレーズから始まる、物語。出会いの予感が微かに香る表現から、物語は綴られていく。

この物語は1話、2話と時間の流れが早い。あくまで、事実だけを淡々と述べている。まるで、誰かの思い出を一歩引いたところから見ている気分だ。
時間だけが過ぎていき、そこにある一定以上の共感は出来ず、何の感情も持てない。

だが、3話でがらりと変わる。時間の流れが急にゆったりになり、たくさんの感情が押し寄せてくる。私は息をするのを忘れた。主人公と完全に同化していた。
読み終わったあと、思いっきり息を吐き出してそして吸い込んだ。胸がどくどくとなっていて、少しだけ手が震えていた。

結局、最後の一文に全部持って行かれた気がするし、最後の一文で全ての違和感が解決した気がする。

1話と2話の時間の流れが早かったわけ。
それが、『青春』だったからだ。物凄いスピードで、駆け抜けていく、青春。それをあえて事実だけを述べるだけで、青春のスピード感と無責任感を出していた。
そして、青春が終わる3話はスピードが遅くなる。というよりも、普通に戻る。だから息がつまる。

この、一万字にも満たない物語で、綴られえた『青春』という時間。
そのスピードと終わりを貴方も感じてみませんか。

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