水汲みの帰りに、ティナが拾ってきたのは、ひとつの異物。魔女じゃないもの。つまりは、人間の男だった。彼は怪我を負っていた。
その男とふたりきりになった魔女のアマリアは、男と話をする。
という、たったそれだけの物語です。文字数は1000文字弱。
それなのに、作品の世界と雰囲気ができあがっています。
作者の筆力が感じられます。
世界観の設定は、あるようでないような。ないようであるような。そんな不思議な心地になります。
地の文では説明をせず、あくまで会話で世界観を見せるだけです。
アマリアと男の、それぞれの主観によって、世界は成り立っています。ふたりのフィルターを通して、世界が見えます。
なかなかできることではありません。脱帽です。
ゆっくりと漂うような作品の雰囲気は、その世界観を魅せます。
どこか安心できて、どこかはらはらしてしまう。そんな危うい雰囲気なのに、それを美しいと感じてしまう。綺麗だと思ってしまう。
しっかりとした地の文と主張し合う会話。その絶妙なバランスが素晴らしいと思います。
魔女の隠れ里。
それは間違いなく、ここに描かれているものなんだと思います。
幻想的で、現実的で、ぐらぐらしていて、しっかりしていて。
魔女たちの行く末が幸あらんことを願いたくなる、そんな作品です。