駆け抜けた青春を乾いたタッチで描くラブストーリーです。
漫画家になれなかった鬱屈した時間を過ごす主人公斎藤莉里花。そこへ現れた軽音の人気者、森瀬奏。軽音のバンドのポスターを書いてくれとりりかに頼みます。
主人公の心情をもてあそぶように話が進んで行きますが、登場人物はみな真剣。
タッチは乾いているのに青春の熱気がガンガンに伝わって来るお話に思わず引きずり込まれます。最終話がどうにも甘酸っぱい結末になっていてアツくなりました。
このお話は物語を書くものとして憧れますね。構成、人物、セリフ回し、風景描写、そして結末。とても完成度の高い短編です。後学のためにも是非読んでみてください。
夢ってなんのためにあるんだろう。
叶えるため?
じゃあ、叶わなかった夢の数々は?
恋ってなんのためにするんだろう。
結ばれるため?
じゃあ、別れてしまったかつての恋人は?
君の足元に粉々に砕け散っているそれは、いつか見た君の夢かい?
それとも恋人との思い出かい?
我々の周りに、当たり前に在る、そう言う疑問の数々。
いったいどれほどの人が答えてくれただろうか。
大人は、先生は、先輩は、答えてくれただろうか。
叶わない夢と結ばれない恋の意味を。
もしもそれらのすべてが、無意味なのだとしたら、果たして青春とはなんのためにあるのだろう。
我々が青春と感じているそれは、実は空虚の正体なのかも知れない。
と。
そう、思っているね?
だから君の周りには残骸ばかりだ。
さて、これから君には魔法がかかる。
なに。簡単だ。
ただこの作品のページを捲ればいい。
ただそれだけでいい。
するとどうだろう。
君の周りに在ったその残骸どもがにわかに色づき始める。
灰色だったそれらすべてが、かつての色を取り戻す。
バラバラだったパーツが浮かび上がる。
一点に向かって集まり始める。
シャラシャラと、スネアドラムの裏側を撫でたときに出るあの音共に、かつての形を成し始める。
今一度現れた夢と思い出。
戻れぬ青春の日々そのすべて。
それをもう一度粉々に打ち砕くのか、或いは抱きしめるのかは君次第だ。
——おっと、待って。
読み終わってからだ。
読み終わったら必ず、今とは違う答えが胸に在るから。
そういう、希望と温かさと爽やかさと切なさを兼ね備えた物語だ。
確かめてみて。
絵を描く彼女と、歌う彼。そんな、実に青春ドラマらしい二人が出逢い、ともに夢を追い――、情景を多めに描いた水彩風アニメーションのような短編です。
ただがむしゃらに夢を追う若き心も、いつかは大人になってゆく。
夢を叶えるものもいれば、夢を捨ててしまうものだっているのでしょう。それが、時の流れというものです。
それでも、ひたむきに何かを追いかけていた日々は、どんな形であっても魂に残るのだと。
今は日々に追われて忘れていたとしても、どんな形で運命が巡りあうかなんて、わからないのですよね。
個人的に、最終話がすごく好きです。
対話よりも雄弁に伝えられるモノがある、その関係性を私はとても羨ましく思ったのでした。
ぜひ読んでみて、白黒画面の向こうに踊る色彩と音を感じてください。
この作品のポイントは上記3つです。
とにかく文字が跳ねます。動いているかのように跳ねます。文字が見えますね。
そして色と音が飛びだしてきます。バンドの音が鳴る場面では、文字の音で打ち抜かれます。なんだろうこれは。読んで体験してみて下さい。めちゃくちゃ不思議で吹っ飛んでます。
そして青春。これは青春物語です。
青春が始まり
青春が燃え上がり
青春が終わる。
そういう感じで出来ています。青春ってこうも色と音があるものもあるんですねえ。
またまた、ご覧の通りタイトルが不思議な形で途切れていますね、前置と後置ができます。
何がここに入るのか。みなさんも一読ならず一〇読して考えてみて下さい。それもまた青春ですから。
誰もいなくなったはずの教室で、落書きノートに影がおちた。
このフレーズから始まる、物語。出会いの予感が微かに香る表現から、物語は綴られていく。
この物語は1話、2話と時間の流れが早い。あくまで、事実だけを淡々と述べている。まるで、誰かの思い出を一歩引いたところから見ている気分だ。
時間だけが過ぎていき、そこにある一定以上の共感は出来ず、何の感情も持てない。
だが、3話でがらりと変わる。時間の流れが急にゆったりになり、たくさんの感情が押し寄せてくる。私は息をするのを忘れた。主人公と完全に同化していた。
読み終わったあと、思いっきり息を吐き出してそして吸い込んだ。胸がどくどくとなっていて、少しだけ手が震えていた。
結局、最後の一文に全部持って行かれた気がするし、最後の一文で全ての違和感が解決した気がする。
1話と2話の時間の流れが早かったわけ。
それが、『青春』だったからだ。物凄いスピードで、駆け抜けていく、青春。それをあえて事実だけを述べるだけで、青春のスピード感と無責任感を出していた。
そして、青春が終わる3話はスピードが遅くなる。というよりも、普通に戻る。だから息がつまる。
この、一万字にも満たない物語で、綴られえた『青春』という時間。
そのスピードと終わりを貴方も感じてみませんか。