見習い魔導士と、雪原の孤児

路地猫みのる

episode 0. プロローグ

 ザッザッザッザッザッ……。

 白くそびえたつ山々の作る仄青い陰の中、大粒の白い雪が服に積もるのも気に留めず雪を掘り続けている少年がいた。人間がふたり、横たわることのできる十分な大きさの穴が出来上がると、少年はそっと優しく、ふたりの人間の亡骸を横たえた。彼を育ててくれた、養父母たちの亡骸だった。はやり病で亡くなったのだ。

 わき目もふらず、スコップを使って雪をかける単調な動きを、一心不乱に繰り返す。寒さも、悲しさも、寂しさも、まるでその行為が振り払ってくれると信じているかのように。

 あたたかくやさしかった彼らの亡骸を、冷たく真っ白な雪が厚く完全に包んだころ。少年は手を止め、ここで初めて魔法を使った。ふたりを葬ることだけは、どうしても自分の手でやりたかったのだ。

 山のふもとで摘んだ野草で編んだリースを手に取る。

氷化アイシクル

 葉っぱの端から氷が湧き出し、ほどなくリース全体を覆いつくす。氷のリースの完成だ。これで通常よりずっと長く美しい姿で、ふたりの墓を飾ってくれるはずである。

 少年は、毎日ここに来ることはできない。これからやらねばならないことがあったからだ。

「さよなら、お父さん、お母さん。これからも僕のことを見守っていてね」

 少年は、養父母と15年間暮らした小屋に入ると、スコップに付着した雪を丁寧に落とし、所定の位置に立てかけ、そしてまとめていた荷物を持って小屋の外の銀世界へ一歩を踏み出した。


 深い憎悪のこもった、低く威圧的な声が、少年の唇からほとばしった。

「見ていろ、僕を殺し、自分たちだけ安寧をはかろうとした者たちよ。今度は僕が、お前たちの平和ボケした脳みそをぶん殴ってやる」

 それは、勢いを増した風に吹き荒らされ、1メートル隣に人がいたところで聞こえはしなかっただろう。

 しかしこの憎悪の声こそ、このパゴニア王国に一筋立ち上った、戦いの狼煙のろしであったのだ。

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