この3200文字の短編はバケモノです。溺れないように注意

タグに「厭世的なギャルが文学少年の色に染まる」とありますように、簡潔にいえば読書好きな少年が気になる少女の話です。
主人公の女の子は、少年とのつながりを求めるかのように、彼が読んでいる本を店頭で手に取ります。
そして、本を開いた瞬間……。

すごいんです、表現が。
瑞々しくて、感覚にどぉあーっと波寄せてくるのです。
まず、視覚に、それから聴覚に、強く訴えかけてきます。
タイトルにもある「耳たぶ」に関する描写も非常に印象的でした。その文章を見た瞬間、登場人物が血や肉や体温を持った生身の人間として、しなやかに動き始めました。

たぶん、どこにでもある、ささやかな恋のお話。
愛しくて、微笑ましくて、クスッと笑えて……。

なのですが、はじけるような瑞々しい感性と独特の描写がこの小説をとんでもないモンスターに仕立て上げています。感性のバケモノです。圧巻です。

作中では「溺れる」をネガティブな表現として使っていますが、よい意味で溺れてしまいそうになりました。
己のキャパシティを超えていて理解困難であるという意味で溺れました。

読み手としては押しよせる感性の波にうっとりと魅せられて、書き手としてはどうやったらこんな表現ができるのだろうと憧憬の念を抱き、逆立ちしてもできない己がもどかしくなります。

この作品は、とってもかわらしいバケモノです。

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