第6話 王族の範囲と王族公爵
爵位を持つ貴族が王位に就いた場合、その爵位は王位に統合(マージ)されて消滅します。
現在のエディンバラ公は、女王の夫ですが、このエディンバラ公位の相続人はチャールズ皇太子ですので、チャールズ皇太子が即位した時点で消滅します。それを残念に思ったエディンバラ公は、「将来のエディンバラ公」として三男のエドワード王子を指名し、エドワード王子もこれを受諾しています。
ただ、これは現在のエディンバラ公の公位を継承すると言う話ではありません。
エディンバラ公位は現在のものを含めて、過去に四回、創設されています。チャールズ皇太子即位後、現在の第四期エディンバラ公位は消滅しますが、エドワード王子にはその時点で、第五期のエディンバラ公位が与えられると言う段取りです。
そう言う事情で、現在、エドワード王子には公位が与えられていないのです。
大体は結婚を機に、ですが、イギリスの王あるいは直系王族の子である男性王族は公爵に叙せられます。
現在の王族公爵は序列で言えば以下の通りです(皇太子は除く)。
エディンバラ公フィリップ王子(女王配偶者。出生の時点でデンマーク及びギリシャの王子。婚約成立時に連合王国王子)。
ケンブリッジ公ウィリアム王子(チャールズ皇太子の長男。直系王族)。
サセックス公ヘンリー王子(チャールズ皇太子の次男)。
ヨーク公アンドリュー王子(エリザベス二世の次男)
ウェセックス伯エドワード王子(エリザベス二世の三男。上記の理由で公爵位を与えられていない)。
グロスター公リチャード王子(ジョージ五世の三男であるグロスター公ヘンリー王子の長男)。
ケント公エドワード王子(ジョージ五世の四男であるケント公ジョージ王子の長男)。
なぜ、結婚を機に、かと言えば、女性配偶者に称号が必要になるからです。
Mr. John Smith の 妻、Mary は Mrs. John Smith です。Mrs. Mary Smith ではありません。これと同じことが貴族称号でも起きるのです。
ウィリアム王子は、結婚を機にケンブリッジ公爵に叙されましたが、仮に叙されなかった場合は、Prince William です。その配偶者の名称はどうなるかと言えば、The Princess William です。
ケント公エドワード王子の弟のマイケル王子は、爵位を持っていないので、夫人のクリスティーヌがまさしく、The Princess of Michael of Kent と呼ばれています。
これは英語から言っても非常にややこしいと言うか可能であれば避けるべき用法ですので、ウィリアム王子の場合は夫人のキャサリンを、ケンブリッジ公妃、もしくはケンブリッジ公爵夫人と呼ぶために、ウィリアム王子にケンブリッジ公位が与えられた、と言うことです。
ヨーク公、クラレンス公、グロスター公、ケント公、カンバーランド公などは歴史上、王子に与えられることが多い公位です。王子に与えられることが多いと言うことは、与えられたこの公位は、続くことなく、王位に統合されたり、継承者がいなくなって消滅することが多かった、と言うことでもあります。
現在の王族公爵のうちでも、ケンブリッジ公位はいずれ王位に統合されるので消滅します。
ヨーク公家は次代が娘しかいませんので、これも将来的には消滅します。
但し、王位に統合されはしない特殊な「王族公爵」位があります。
ランカスター公位はこれも歴史的には王族公爵の爵位として与えられがちな公爵位だったのですが、これは消滅することなく、代々の君主が兼務することになっています。つまり現在のエリザべス二世女王は同時にランカスター女公爵です。
コーンウォール公位(イングランド)およびロスシー公位(スコットランド)は、君主の法定相続人に自動的に与えられます。母であるエリザベス二世が女王に即位した時点で、チャールズは自動的に皇太子 Crown Prince になり、それと同時に、コーンウォール公およびロスシー公になっています。
チャールズ皇太子の現夫人のカミラは、なれそめがそもそも不倫であったので、故ダイアナ妃贔屓の世論に配慮して、ウェールズ公妃を名乗っていません(ただし名乗っていないだけで、ウェールズ公妃の称号は持っています)。彼女がイングランドではコーンウォール公妃、スコットランドではロスシー公妃を名乗っているのは、この両公位がウェールズ公位に次ぐ格式の爵位だからです。
ウェールズ公の公は Duke ではなく Prince です。この Prince は王子と言う意味ではなくそれ自体が君主の意です。ちなみに日本の華族制度における公爵は Duke ではなく Prince です。近衛文麿元首相がプリンス・コノエと呼ばれたのは比喩ではなく実際の称号がそうだったからです。
ウェールズ公は自動的には与えられません。皇太子になってから適当な時に、与えられます。
チャールズ皇太子は学校在学中に自分がウェールズ公になったことを、ニュースで知ったのですが、このエピソードを邦訳していたある書籍が、「彼はその時初めて自分が皇太子になったことを知った」と訳していましたがこれは誤訳です。
これに限らず欧州貴族関係の日本語書籍にはこの種の誤訳や解釈の間違いが非常に多いのです。些末に見えるかも知れませんがこういう些末なミスが、日本人の欧州貴族制度の理解の障害になっています。
これは英国皇太子=ウェールズ公と言う等式に引きずられすぎたミスでしょう。皇太子 Crown Prince は王位継承法にのっとって厳密に、自動的にその立場につきますから、人為が介入する余地がありません。ウェールズ公位を得る前でもチャールズは皇太子ではあったのです。
イギリスの場合は王族の範囲は定義があります。
①君主の子
②君主の息子の子
③皇太子の子
②と③は重複するようですが、皇太子が現君主の孫である場合もあるので、そうなっています。
エリザベス二世の父のジョージ六世の存命中に、エリザベスの子であるチャールズとアンが生まれていますが、彼らは直系の王族であるにもかかわらず、上記の定義だと「君主の娘の子」であったので王子/王女にはなれないことになります。
そのためジョージ六世は勅令でもって「エリザベス王女の子らは王族とする」と例外規定をもうけています。
似たような事案はウィリアム王子に長男ジョージが生まれた時もありました。
ウィリアム王子自身は「君主の息子の子」「皇太子の子」双方を満たすため王族なのですが、ジョージは直系の継承者であるにもかかわらず、王族の範囲から外れます。
これもエリザベス二世が勅令をもって「ウィリアム王子の子らは王族とする」として、ジョージや下の弟妹たちは王族になっています。
さて、ヘンリー王子の長男アーチーは、皇太子の孫であるため、王位継承順位は第七位と高いのですが、現時点では王族の範囲から外れるため、王族ではありません。公式にはサセックス公子アーチー卿、もしくは儀礼称号で、ダンバートン伯爵あるいはダンバートン卿と呼ばれることになります。ただし、祖父であるチャールズ皇太子が王位を継承すれば「君主の息子の子」になりますので、アーチー王子になる見込みです。
現在は王族公爵であるグロスター公家とケント公家ですが、次世代からは王族の範囲を離れます。
イギリスの現在の公爵位は(すべての爵位がそうですが)、イングランド貴族、スコットランド貴族、アイルランド貴族、連合王国貴族に分かれて、その順序通りの格式差があります。これは地域ごとに分かれているのではなくて(地域ごとに分かれてはいるのですが)年代順です。
つまりグレートブリテンおよびアイルランド連合王国が成立して以降、創設されたすべての貴族は連合王国貴族です。
グロスター公家とケント公家も連合王国貴族になります。
現在の両家は王族であるため、イングランド公爵であるノーフォーク公爵家やモールバラ公爵家よりも席次は上なのですが、次世代からはヒラの連合王国公爵扱いになるので、公爵の中ではほぼ末席扱いになります。
王裔の肥大化は、避けられないので、どこの国でもある程度はこういうことは起こり得ます。どこかで「切り捨て」なければならないのです。
ナーロッパを描く際にも、その辺の制度を、描くか描かないかはともかく、設定として用意しておいた方がいいでしょう。
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