アシモフを思い出させるスケールの巨大さ

 森羅万象――一言で言うのなら、その言葉が『ヴィーナシアンの花嫁 ~シンギュラリティが紡ぐ悠久の神話~』にピッタリ合うと僕は思う。宇宙の可能性、万華鏡のように広がる未来、そして銀河の壮絶な美しさに魅了される僕たち。それ全てを作者は科学的明瞭に、たまにはコミカルに、たまにはタッチングに、人として切実に書き出そうとしている。

 このモダンな神話は、AI――つまり、人工知能を創造しようとする若い科学者たちの日常から始まる。僕たちの分身をを創るという願いは、SFの中心にあるテーマであり、古代から人々を惹きつけてきた。たとえば、ギリシャ神話ではキプロス島の王、ピュグマリオーンが彫刻であるガラテアに恋をする。それを見た、愛と美を司るアフロディーテはガラテアに生命を与え、ピュグマリオーンとガラテアはめでたく結婚する。その神話が初めて語られてからおよそ二千年後の2012年、僕たちはドラえもんが生誕する百年前の誕生日を祝った。生きる彫刻、ロボット、AI――言葉は違っても、僕たちはずっとこの夢を抱いてきた。そしてそのいつかは必ず叶う夢を実現させてしまうのが『ヴィーナシアンの花嫁』の原点である。

 そうして主人公たちはシンギュラリティと呼ばれる革命的な一点を超越してしまう。人より技術改善に優れるAIはまたたく間に進化していく。そうすると世界はどうなるのだろうか? より良い社会は作れるのだろうか? そしてもしAIが暴走したら? それだけではない。科学的に進歩した僕たちが宇宙に出れば、そこに待っているのはどんな存在なのだろうか? 『ヴィーナシアンの花嫁』はそれ全てを答えようとするスケールがまさに宇宙的巨大な作品だ。

『ヴィーナシアン花嫁』はこの上なく率直に作者の想いが描かれていると思う。だから今から deep child さんに注目しておきたい。シンギュラリティがAI技術のいわば原点であるように、『ヴィーナシアンの花嫁』は作家としての deep child さんの原点であるのだから。壮大な未来を想像する作者が歩む道を見届けたい――そう僕は思っている。

 さて、もしあなたが人類の可能性に魅了されたいのなら、科学者たちと普通の日常を楽しくワイワイしたいのなら、そして作者の切実さを求めるのなら、『ヴィーナシアンの花嫁』を読み始めるためのボタンは上にあるのではないだろうか。

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