きみが明日も生きてくれますように。

作者 此見えこ

みんな幸せになってほしい。

  • ★★★ Excellent!!!

人間は感情と欲望の生き物だ。
醜いところも、汚いところもあって、でも、だからこそ愛おしい。
そう思わせてくれる傑作だった。

この作品は高校生の男女――主人公の幹太とその幼馴染の七海、幼馴染が恋に落ちてしまう卓、主人公のことを好きになる季帆、この4名の関わり合いを主軸に展開される。
ラブコメ、ではない。終始シリアスな恋愛ものであり、青春ものでもある。
と同時に、七海がなぜ幹太をさしおいて他の男性と付き合うことになったのか、なぜ柚島に行きたがったのか、また季帆がなぜ幹太にあれほど献身的に(自己犠牲的に)ふるまうのか、張り巡らされた謎が物語を駆動し、それらが少しずつ明かされる様はさながらミステリのようでもある。

一話読み進めるたびに、読み手はああでもない、こうでもないと想像を巡らせる。
それが合っていたとしても、間違っていたとしても、思い悩んだひとときは至福の時間だ。
そして最後まで読み終わったとき、すべての謎が明かされたとき、待っているのは怒涛のように押し寄せるカタルシス。
すべてのピースがぴたりとはまり、きれいな一枚絵になる、ジグソーパズルの完成に似ている。



もちろん、ただ話の筋がいいというだけではない。

まず、文章がべらぼうに上手い。
掛け合いばかりが続くような文章ではない。
情景描写、心理描写にも余念がない。
だが、表現過多に陥ることなく、適度に省略を入れて余韻を感じさせつつ、読み手の読解力に委ねる。
その結果、地の文と台詞のバランスが絶妙で、さらりと読める。

テンポがいい、とひとことで言うのは簡単だ。
しかし、その陰には並々ならぬ推敲の努力があるはずだ。
もしそうでないとしたらそれは、天賦の才、としか言いようがない。
そんなことさえ感じさせる筆致だ。

お話のボリューム感もいい。
話が途中で脱線することもなく、物語の本筋を最後まで過不足なく書ききっている。
本編だけでちょうど単行本1冊分くらいだろうか。
このくらいのボリュームで物語を起承転結させられる書き手は、腕がいいと思っている。

各話のタイトルはシンプルでそっけないように見えて、なかなか意味深で、そこもセンスが光るように感じられた。
表題をオチにもってくる手法はありがちではあるけど、私は好きなやり方だ。
最初から最後まで、きちんと筋が通っているような気がするからだろう。



好き嫌いはあるかもしれない。
でも恋愛ものが好きで、ヒリヒリするようなお話が好きで、作者のストーリーテリングの妙に酔いしれる作品が好きなら、太鼓判を押します。
本当に完成度の高い作品です。
ぜひ読んでみてください。

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