テンプレなんか関係ない! このお話のこと、好き?

面白かった。
何日かに分けてのんびり読み進めようと思っていたら、つい夜ふかしして一気に読み終えてしまうくらい、面白かった。

「地味な少年」と「美少女」とのボーイミーツガール。
というありふれた素材から、どうやったらこんな奇天烈なお話をひねり出せるんだろうか、と唸ってしまう。



もしかしたら多くの賛同を得られない意見かもしれないけど――
この作品の主人公は遊薙さんで、ヒロインは桜庭くん。
私はそう思っている。

遊薙さんは主人公らしくチート持ち、すなわち美少女だ。
並の相手なら簡単に勝ててしまう。
しかし、そのチートをもってすら勝ち難い相手に出会ってしまうのが、主人公の宿命。

おまけにヒロインたる桜庭くんときたら、なんというか「後ろ向きに、前向き」なものだから。
なにもしないどころか、むしろ積極的に展開を壊しにいく。
これを難敵と言わずして、なんと言おう。

そんな二人によって繰り広げられるお話は、独特の緊張感をはらんでいて、予断を許さない。
作者さんも扱いにはとても苦労したみたいだけど、それを力技でねじ伏せたからこそ、既存のラブコメにはない面白さがこの作品には生まれている。



冴えない風貌のくせに天然ジゴロの桜庭くんは、あちこちで惚れられる。
ラブコメに毒された私たちは、すわハーレム展開か、と息巻くのだけど、そうは問屋がおろさない。
なぜなら、恋愛嫌いの桜庭くんは、フワフワしてくれないからだ。

と言いたいところだけど、実はそれは表向きの理由。
裏の……真の理由はというと、次々に登場するサブキャラクターは、いわば当て馬。
物語を前に進めるためのギミックにすぎない。

この作品では、半ばを過ぎてからも、新キャラが出てきたりするからびっくりしたのだけど。
ギミックだと割り切ってしまえばストンと腑に落ちる。
ついでに言うなら、前の方で出てきたサブキャラがそれっきり登場しないのも、同じ理由。
あくまでも、このお話は、遊薙さんと桜庭くんの関係に絞り込まれている。

これって、もしかしたら既存のハーレムラブコメへのアンチテーゼなんじゃないだろうか。
そう考えると、なかなか趣が深い。



そして、この作品の一番の見どころ。
それは、桜庭くんのコンプレックスそのもの。
恋愛を苦手だと感じたことのある人なら、少なからず考えたことがありそうな。
そんな疑問を、むきだしにして突きつけてくる。

その上で、こうあるべき、ではなく、手探りで二人の関係を構築していこうとする。
それは、イチャイチャ、とはいささか異なっている気がして。
もう少しだけ優しくて、もう少しだけ暖かい、確かな手触り感のある何かを思わせる。
そこが、たまらなく愛おしい。



間違いなく、力作。
この作品を書いたことで、作者さんの力量がまた上がったように感じられる。
そういうインパクトのある作品だった。

皆さんはどのように感じられましたか?

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