主人公と幼馴染の"妹"、お互いに心に傷を持つもの同士の2人を中心とした恋愛物語。
主人公はとことん焦れったくてうじうじして迷って、自分でたくさん背負おうとするし我慢しようとする。
ちょっと過去で色々あった普通の"人間"…。
そしてヒロインも、色々なことを諦めて、でも諦めきれなくて…逃げ出した先は1番の未練がいる場所。
彼女もまた過去に色々あった普通の"人間"…。
そんな2人が、身体を重ねることでお互いの傷を確かめあうところから、この物語は始まる…いや、変わっていく。
この物語は、とことん人間な主人公とヒロインの、
"人間の人間による人間のためのヒューマンドラマ"である。
読み始めたら、ページを進める手が止まらなかった。
とても、ソリッドなお話だと思う。
もちろん内容の重さだけではなくて――
言葉遣いや、言い回しや、それから会話のテンポなどが。
過剰に気障ったらしくなく、それでいて洒落ている。
ページあたりの分量も、ついつい先を読みたくなる引きも、
それから全体のペース配分も(それを意識的に計算しているところも)
しっかりとした実力を感じさせる。
性描写はそれほどでもなく、むしろ絵空事でない恋愛関係を描くという意味で、
生々しさを付与する重要な要素になっている点も、この作品の良いところ。
序盤に流されて関係を持ってしまうあたりでは、男性向けポルノ的な、
「据え膳食わぬは」展開かなーと思ったりもしたけれど、
あとから冷静に考えると、あそこでサキがミィを抱く「理由」はちゃんとあるので、
綺麗事だけではすまない痛々しさも若さの特権、青春の1ページなのだろう。
いくつか他の作品にも目を通してみたが、この作者さんは「青春」小説がうまい。
その洗練された文体も、題材の取り方も、構図の切り取り方も。
特に短編2作品は思わず息を呑むような出来栄え。
いい意味で、“ライト”ノベルの範疇は超えている。
(まぁ、だからこそ“ライト”ノベルレーベルが手を出しにくい部分はあるんだろうなぁ)
新作はまたちょっと毛色の違うお話のようで、これまでの作品を眺めても、
いろいろな作風にチャレンジしてゆくおつもりのようではあるけれど、
できうるならばこのソリッドさは無くさないでいてほしいなと、切実に願う。
たまにこういう逸材がしれっといるから、カクヨムは油断がならないですね。