ひとことで言うなら「暗黒童話風ファンタジー」だろうか。

面白い。
一章を読み終え、一区切りしたところで、そう確信した。


ひとことで言うなら「暗黒童話風ファンタジー」だろうか。
ライトノベルの文脈では、紅玉いづき『ミミズクと夜の王』、新井円侍『シュガーダーク』などの系譜にある作品。
あるいは、私自身はあまり詳しくないが、ボカロ系の楽曲でも一時期ブームが来ていた"あのへん"の流れに位置する。

主人公は幼さの残る少女ながら最強クラスの魔法使いで、多彩な魔法をあやつるさまは、神坂一『スレイヤーズ』以来の伝統にも沿う。
魔法がある種の技能(テクニック)であり、テクニカルに工夫し行使しえるというのも、同様。

カナリアと呼ばれるその少女は、音声を発することができず、会話はもっぱら手に持った魔道具「石版」を用いておこなう。
一般に魔法は「呪文を唱えて行使するもの」と信じられている(らしい)世界にあって、無声で魔法を行使しえる彼女はしばしば俗世の理解の範疇外にあり、魔法を封じ込めた魔道具を使いこなしているだけだろうと誤解される。

カナリアとともに旅をする連れ(バディ)となるのが、その呼び名のもとともなっているカナリア型のゴーレム、シャハボ。
こちらは音声を発することができ、独自の知能をもっていて、状況によってはカナリアの代弁をすることもあるほか、普段はツッコミ役、もといカナリアのよき相棒としてふるまう。
いささか口が悪い。

この奇妙な一人と一羽が、ゆく先々でさまざまな事件と出会うロード・ノベル。
というのが、この作品の大枠であろうと思われる。
ファンタジー感あふれる、なかなか魅力的なお膳立てですよね。


ところが話はそう単純ではない。
この奇妙な一人と一羽がかすんでしまうくらい、いずれの登場人物も一癖二癖ある人物ばかりで、始末に負えない。
一章でいえばこいつが実質"裏の"主人公じゃねーか的なイザック・オジモヴをはじめとして、下手をすれば主役を食ってしまうくらいにアクの強い面々が揃っている。
そんな一筋縄ではいかない登場人物たちのさまざまな思惑が入り乱れ、事態は二転三転の様相を見せる。

カナリアに感情移入することはできなかったものの(残念ながら)、どう話が転がるのか、先が気になってしょうがなくて、第三者的視点で一気に読み進めてしまっていた。
こういうのは存外珍しいかもしれない。


小道具から筋書きまで、この作品は異世界ファンタジー的なイマジネーションに満ち満ちている。
そのイマジネーションの豊かさには、ただただ舌を巻く。

特に私がお気に入りだったのは、すたれかけた地元の古き伝統料理を愛食することで、古き伝統を知る地元民の信頼を得るくだり。
背後に歴史の重みがよこたわっている、そのずっしりとした感じは、非常にファンタジーらしいと感じ入る。


文章力という面では正直、まだ粗削りだなと感じるところはある。
しかし、それを力技でねじ伏せてしまうくらいの、磨けば輝くだろうと思わせる原石の魅力が、この著者にはある。

見どころを感じたのは、出だしで設定をだらだらと語るのではなく、どちらかといえば説明は抑制的に、謎は謎のままで物語を進めていって、徐々にいろいろなことを明らかにしていくという手法。
読者を物語に"乗せる"上では非常に有効な手法だと思っているので、ぜひ強調しておきたい。

往年のファンタジー系レーベル新人賞に応募していたら、佳作で入選するくらいの出来にはすでになっていると思うけど、できれば編集さんに赤入れてもらって改稿しっかりやって……そしたらちゃんと売り物になりそうな気がしている。
誰か手を出さないかなぁ。

あるいはこの作品でなくとも、この作家さんはいずれ化けそうな予感がする。
そういう期待も込めつつ、このレビューを捧げます。

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