第3話 1匹、旅に出る。
その日、猫は旅に出ました。
1匹、旅に出たのです。
「お母さん、行ってくるよ」
「ダメよ、まだ早いわ。あなたは体も小さい。」
「お母さん、大丈夫。もう立派な猫さ。すぐに帰ってくるよ。少しだけお外を見てみたいんだ。それにお兄ちゃんはもう先に旅に出たでしょ。」
この日を待ち望んでいた小さな黒猫は心配をする母猫を他所に家を勢いよく飛び出した。
「こら、待ちなさい!!」
「大丈夫だってば〜!」
小さな黒猫はワクワク止まらりません。走るスピードはどんどん加速していきます。子猫は森の中をかけて行くと小さなお家に出会います。
「うわあー!これは一体なんだろ?」
森で育った子猫には見るもの全て初めてです。家をみた事がありません。
「こんにちは」
もちろん家は喋ったりしません。
「ねえねえ〜。」
……
「寝てるのね。」
子猫は諦めて家の横にある畑にはいりました。見たことがない野菜や木の実に興味が出た子猫は臭いを嗅いでみたり、かじってみたり。たくさん走り回った子猫は少し眠くなってしまいました。
「ふああーあ。眠い。」
一休みしようとレンガの影に丸くなり、そのままウトウト眠りに入りました。しばらくするとそこへひとりのおばあさんがやってきます。
「おやおや、お前さん猫だったのかい」
この家に1人で住むおばあさんです。
「お前は1人かい?親はどうしたんだい?兄弟はいないのかい?」
おばあさんは優しく声をかけます。猫からの返事はありません。
「あらあら、どうやら寝ている様だね。とても気持ち良さそうだね。今日は晴れているからね。」
おばあさんはゆっくりと木苺を摘みに戻ります。
これが1匹と1人の出会いでした。
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