陰謀と策略の間で若き王子が伝説の謎に迫る、美しく硬派なファンタジー

二つの隣り合う国があるとき、その関係はしばしば難しいものです。お互いに相手が持っているものを欲しいと願うのはある意味当然の望みかも知れません。しかしそれをどういう手段で手に入れるか、そこに国を治める者の器量が試されるのではないでしょうか。

かたや豊かな森の資源に恵まれたシレア国。かたや海の産物には事欠かないテハイザ国。
中立を願う国。搾取を狙う国。
物語の前提となっている二つの国の関係からしてすでに波乱を感じさせます。

密かに自国を狙うテハイザへ表敬訪問するシレア国の王子カエルムと、親友のような頼もしい従者ロス。陰謀と策略の渦巻く世界で、二人はけんもほろろな相手の対応に辟易しつつ、持ち前の聡明さで少しずつ隣国の秘密を知っていくのですが……。

まるで見てきたかのような緻密な情景描写は、あたかもこの国が存在するかのようです。そして緊張した状況の中にもウイットのある会話。冷静かつ大胆な王子と従者のかっこよさにぜひとも惚れ惚れしてほしいです。

そして物語の要である「異変」。
二つの国で同時に起こった異変は、どちらも人の拠りどころとなるものを失うという、焦燥と不安をかき立てるものです。それは国を治める者も同じ。まるで国のあり方の危機を暗示しているようなこの異変に対し彼らはどう動くのか、そして相対する二つの国はどこへ向かうのか。それは後半からラストへかけての怒涛の展開でお確かめください。

ミステリアスな謎と見目麗しい男たちのドラマが硬派な文章で綴られる、読み応えあるファンタジーです。

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