12,カンゾウ
先生に馬乗りになった状態で、私は萱草色と赤色に染まった包丁を見た。
「先生、どうして教えてくれないのですか。生徒の質問には誠意をもって答えてくれるのでしょう?」
かつて先生だったものは、ピクリとも動かない。
「先生、もう死んじゃったの?」
何度も見た光景だった。
死を探す旅に出て、たくさんの人に出会った。年寄りから乳児まで、あらゆる人に出会った。道端を歩く犬にも、車道で動かなくなった猫にも。
私は質問した。
「死ぬって怖いですか」
「死ぬってどういうことなのですか」
いくら聞いても、誰も教えてくれなかった。
だから、私は死の窮地に立たせてあげたのだ。
それでも、みんな教えてくれなかった。
いつになったら、私の旅は終わるのか。大きな暗い虚無感が、私を覆っていく。誰も、この問いに答えられないんじゃないか。大きな暗い不安ばかりが、体に纏わりついていく。
その時、江ノ島に来ていた先生を見つけた。
あの時の先生の顔は忘れない。私を見た瞬間の、驚いた表情の奥に眠る、おびえている様子が、何とも可愛らしかった。その後の、好意を寄せる眼差しも、懐かしかった。
私は思った。
先生なら、きっと教えてくれる。
これで、死を探す旅も最後になるかもしれない。
それに、またあの頃みたいに。
もう一度、私を「椿」と呼んで。
私は、先生の萱草色に光る瞳を見ていた。
萱草は、身に着けると憂いを忘れるのだ。
萱草色の飴 有髷℃ @yatagai
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