「ホラー」というジャンルを初めて経験した

僕は、「ホラー」というものを読んだことがないのです。怖いのが苦手というのもあるんですが、「よくわからない」って言ったらいいのか。

僕が人生で読んだことのある「ホラー」というと小野不由美の『魔性の子」だけだと思うんですけど、あれは十二国記シリーズの中の一作として読んだのであって「ホラー」を読もうと思って読んだのではないし、読む前からオチを知っていたので特に怖いとは思わなかったんですね。さらに言うと、あの作品で描かれていた恐怖は、僕が十二国記の世界観を知らずに読んだとして怖いと思ったかどうか。

「怪異の正体を知っているのであまり怖くない」というだけでなく、たとえ僕が「魔性の子」を十二国記の世界観を知らずに読んだとしても「怪異の正体が分からないにしても、だから何なんだ?」という気持ちになってしまう(ような気がする)。

怪異が存在するという設定の世界観で怪異が存在するのは当然のことであって、それを怖がるという感覚がよく分からない、というのが正直な気持ちだったりします。それでも僕が「魔性の子」という作品をそれなりに好んでいるのは、それが十二国記シリーズのひとつであり、シリーズ全体のテーマと結びついているからであって、実際のところあれを怖いとは思ってないし、作者の恐怖を描く力量が優れているとも感じたことはありません(小野不由美の有名な『残穢』とかを読めばまた違う感想を持つかも知れないけど、今のところそれを読む予定はない)。

そういうわけで、僕にとってはこの作品が「ホラー」というジャンルの初体験だったと言って良いわけですが、いやぁ…怖かった…本当に怖かった…

何なんでしょうね。怪異の正体には、割と早い段階で気づきました。でも怖い。怖いんだけど先が気になって読むのをやめられない。「ホラー」というジャンルに全く縁が無かった僕ですけども、『ほねがらみ』を読んでホラー好きな人がホラー作品をどう楽しんでいるのかは少し理解できたような気がします。

怪異の正体に気づくことと、それが怖くなくなることは全然別なことであり得るのだなと。

正直なところ、この作品を分析したり考察したりというのは僕の手には余ります。というより、まだ読後の衝撃が収まらず、冷静に作品について論じられる状態ではありません。時間をおいてもう何回か読み直して、自分の中で消化しないとこの作品について何事かを語るということはできそうにないです。それくらい、巨大な質量を持ったコンテンツだと思います。僕は高校の教員ですけど、授業でこれを解説しろって言われたらちょっと無理ですねって答えますね。銀の匙の授業やるほうがまだマシです。

読み終わったら誰かに読ませたくなるって、これを読んだ人はみんな言ってますけど本当にその通りですね。ホラー好きの知り合いにお勧めしてみます。

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