未来を探り、過去に出逢う。涙とまらぬ夜をこえ、きっと幸せは花開くから。

母親との死別によって孤独になってしまった少女が、周囲の人々に支えられながら立ち直り、進路を選び、成長していく物語。少女から成人への過渡期にあるヒロインの悩みや恋が丁寧に描かれています。

母ひとり、子ひとり、それでも幸せだった毎日は、母の突然の死によって壊れてしまう。
まだ高校三年生だった未咲の前に立ちはだかるのは、進学かそれ以外か――という進路の悩み。自分の気持ち、経済的なこと、いろいろな要素で行き詰まっていた彼女に助けの手を差し伸べたのは、久しぶりに再会した幼馴染みの志賀君でした。

しっかり者で洞察力にたけた志賀君と純心で激ニブな未咲との恋模様は、もどかしくも安心感があり、読み手としては二人の幸せを予感させられてついつい顔が緩んでしまうのですが。
中盤以降、もう一つの出逢いが未咲の日々に少しずつ大きな影響を及ぼすようになっていきます。
運命的にも思えるそれがもたらしたものは、ようやく穏やかに回り始めた未咲の日常を破壊してしまうほどの衝撃でした。
未咲がそれにどう向き合うか――は、この物語のもう一つの軸と言えるでしょう。

丁寧に積みあげられた文章は、一般に近い質量で読み手を物語の世界へと誘います。
急かずに、ゆっくり噛みしめ味わうのがお勧めです。きっと、この物語に触れたあとには、傍らにいる大切な誰かにもっと優しくありたいと思うことでしょうから。

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