第11話 ちょっと悪い方向に考え始めるとドンドン深みにはまっていく
結局、アルバートが自身に与えられた執務室にたどり着くまでに時間はかからなかった。城の中に入った瞬間から何人もの使用人から挨拶と案内を受けてあっさりと執務室まで来ることができたのだ。
途中で話を聞いた使用人によると五年前のアレス解放戦において、バーウィックを拠点に敵軍の残党狩りや魔物への対処を進めていたアルバートのことを多くの人々が覚えてくれていたらしい。
そのことを嬉しく思いながら、アルバートは執務室の中を見渡した。今まで貸し与えられていた帝都の執務室に比べれば質素ではあるが、より広く応接用のスペースまであった。
「お!」
その中で、アルバートが思わず声を挙げるほど欲しかったものが執務机のすぐそばにあった。
地図だ。
それも、アレス公爵領の詳細なもの。
地図というのは戦略上、とても重要なもので世の中に出回るのはかなり精度を落としたものばかりで町や村へのおおまかな道順と方角、あとはあいまいな距離がわかればいいというものがほとんどだ。
稀に山や丘の形状、川や池などの水場の位置から現在地を確認するのに役立つ
それだけ、地図とは、そこに記された情報とは重要なものなのだ。
今、アルバートの目の前にあるのはその個人で作り上げた最高の地図よりも遥かに精度の高い代物だ。おそらく、ではあるが、
その地図を穴のあくほどに見ながら、アルバートはアレス公爵領の地理を頭に叩き込み始めた。この地図を外に持ち出すなんてことは出来ないし、何より地理を把握しているか否かは遊撃を主に担ってきたアルバートにとって生死を分けるほどの差につながっていた。
アレス公爵領はティスタ平原を抜けた北にあり、南東にはティリッチ山脈、南西にスタウィッチ山脈、北にはローアン山脈があり、三方を山脈に囲まれた逆三角の形をしている。
さらに、東にはアルシュバール教国、西にはカトラルド協商国に囲まれており、北のローアン山脈は魔物の巣窟である。南以外を見事に敵か天然の要塞で囲まれたアレス公爵領は年に数度は小競り合い程度の戦が起こり、帝国が弱まれば侵略の魔の手にさらされ、運が悪ければついこの間の様に魔物が暴走を始める。
「……なんというか、よく持っているな、ココ」
そんな感想が漏れるのもやむなしといったところだろう。
では、どのようしてこの領を今まで守ってきたのか、ということを地図から読み取ると、まずアレス公爵領の直ぐ南には帝国軍の砦があって、何かあれば帝都に応援を求める早馬を飛ばしつつ後詰めを務めてくれる。
バーウィックの東にはロッドが治めるティニアン、南東にはティリッチ山脈を背にしたランディが治めるシュローがあり、これが防衛線を構築しながらアルシュバール教国と相対し、西にはヴィエンヌという都市があってここの領主がカトラルド協商国と外交を通じてここ最近は平穏を保っている。そして、南西には鉱山都市であるステラガがあり、ヴィエンヌを治めている領主がここも統治している。
東西には大きな二つの砦があって、これと各都市、そして両軍が連携することで今まで大規模な戦を切り抜けてきたようだ。
もっとも、いまでは二つの砦は国軍の管理となり、南の砦と三つ合わせてアシュバール教国ににらみを利かせているようだ。
ちなみに、つい最近のティスタ平原での魔群との会戦では、アレス公爵領を戦場にしないように魔群を誘導して公爵領を素通りさせてティスタ平原まで引き込んだらしい。
その方法は軍の上層部しか知らされておらず、探ろうとしたものは厳罰に処す、とお達しが出ている。
「あー……どうすっかな、ホントに」
現状、アレス公爵領は自領の統治でいっぱいいっぱいになっており外敵に対処する余力がない。
この余力を捻出してもらい、育て上げるのが自分の仕事だとアルバートは考えていた。
「まずは、妹姫様から話を聞かんとどうにもならんか」
椅子に深く腰掛けなおし、アルバートは深く長いため息を吐いた。
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