第6話 行動力ある人っていつの間にかどっかに行くよね
頂上へとたどり着くまでの間、ロッドとランディは互いが管理している都市でどのような検問しているのか、検問に割いている人数等を大まかに共有しあい、そのうえで今後どうしていくべきかについて意見を交わしているようだ。
その様子を先頭に立って聞きながら、アルバートはその議論の内容について極力耳にしないように努力していた。領主同士の話し合いを軍人が聞き耳を立てるというのは慎むべき行為だと、身に着いた習性のようなものもあるが、ああして真面目に努力している二人に水を差すような気がする、という心情的なものでもある。
意識して風のせせらぎに耳を傾け、青空を行く雲を眺めながらしばらく進んでいくと、丘の頂上にたどり着いた。その場で馬の脚を止めて待つと、次々と十人の少年たちが到着し、遅れて五組の馬車が現れた。
その様子を眺めたアルバートは馬から降りて、先へと歩き始めた。見晴らしのいい場所を探してあたりをうろついたところで、格好の場所を見つけてその場に尻を降ろした。
眼前に広がるのは平原とそこを流れる大河、クオン河。そこから何本もの支流が流れ、行きつく先には二重の城壁に囲まれたバーウィック城とその城下町だ。
古くから残る城郭と外周に並び立った城塞都市であるバーウィックははるか昔から戦火に巻き込まれることの多い土地だそうだ。
北には魔物がはびこる“未踏領域”が広がり、東にアルシュバール教国、西にガーディール協商国と国境を接しており、南の帝都アイラブルクとは距離があり、帝国の飛び地といえる領地であることから帝国の内部で混乱があればすぐに食いつかれるようだ。
「……もうあの時の傷痕は目立たなくなってるな」
アルバートが知っていたのは五年前の戦争のすぐあと、敵の猛攻に削られた城壁と、潜入された敵兵によって破壊された市街の姿だった。
「いい街になりましたでしょう?」
そういって笑ったのは、うら若き少女だ。マルティナ・レキ・マックール。バーウィックの衛兵隊長を務めているという彼女は他の少年らとは違って鎧の着こなしが様になっており、馬の扱いも抜群に巧かった。
「この五年、各地からの支援のおかげで復興にだけ注力できまして、何とかこの姿を取り戻すことが出来ましたの」
目を細めながら見つめるその横顔は思わず見惚れてしまいそうになるほど絵になっていた。
(いかんな、相手は十四も年下だというのに……)
その横顔から目をそらして、アルバートは街の方へと視線を向けた。昼時ということもあってか街のあちらこちらから飯炊きの煙が上がっていた。
「だいぶ人も戻ってきているようで……」
戦争で攻撃を受けると、どうしても街から人は離れていってしまう。五年前のアレス解放戦線の後も、帝国から派遣された軍隊の後を多くの難民が付いて来ていたのをよく覚えている。
「ええ、二年ほど前に各地からの移民を募るようにしてようやく前の八割くらいまで戻りました」
説明しているマルティナの顔には嬉しさだけではなく、複雑な感情が含まれているように見受けられる。去った人と来た人。帰ってきた人と還ってこない人。残された側にも色々とあるのだろう。
「……それなら、彼らもすんなりと受け入れられそうですね」
アルバートは振り返って、馬車が集まっているところを見た。そこには馬車の御者を務める10名ほどが集まって談笑していた。
「彼らは?」
「移民希望者です。御者として雇っていますが、街についたらそれぞれ手に職をもっていますのでそれぞれが店を構えることになるかと思います」
おお、と言いながらマルティナは彼らの様子をまじまじと見つめている。
「もしよろしければ、」
声をかけたアルバートに、マルティナは勢いよくそちらを向いた。肩よりも長い綺麗な茶髪がふわりと舞ってアルバートまで可憐な香りが届いてきた。
「彼らが店を探す際に誰か世話役を紹介してもらえないでしょうか?」
「ええ、私でよければ!」
では、と一言挨拶をして、マルティナは御者たちのところへと歩いて行った。輪の中に入っていって何かを話かけ、そして段々と話が弾んでいくのが少し離れたところで見ているアルバートにも分かるほどだ。
「……すごい行動力だな」
そこまで声に出したところで、アルバートはふと思いついた。あの行動力はおそらく、彼らに必要なものだったのだろう、と。
ロッドとランディもそうだが、彼らは何かあればすぐに行動を起こし始める。何か学べばそれを共有し、何かを思いつけば話し合う。そして、今のマルティナのように出来ることがあれば手早く取り掛かる。そうでもしなければ、彼らの様に若い当主達はその座を守ることが出来なかったのだろう。
無論、どこかに必ず大人の手助けはあったはずだ。だが、彼らはそれで良しとせず、自分たちで自分たちが出来ることを探して、こなしてきたのだ。
そこまでを考えて、アルバートは彼らに一つ畏敬の念を抱いた。
そのうえで、彼らのために何かできることはないか。
そんなことを考えながら、もう一度バーウィックへと目を向けるのだった。
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