第9話 北の朝は慣れていないと本気で寒い
翌朝、それもまだ太陽の昇りきらない頃にアルバートは目覚めさせられた。あまりに寒すぎるのだ。春も訪れたというのに未明の冷え込みは厳しく、アルバートは長旅の疲れもあるというのに眠りを妨げられてしまったのだ。
のそのそと起きだしたアルバートは自らの荷物から外套を取り出して毛布代わりに被るともう一度ベッドにもぐりこむ。
「冬でもないのにこの寒さってどういうことだよ……」
文句を言いながら寝なおしたアルバートは初めて今回の異動を後悔したが、それもすぐに微睡みの中に消えていった。
それから数時間もしないうちに、アルバートは自然と目を覚ました。木窓を開け放つとまだ日は沈んだままではあるが徐々に夜明けが近づいてきていることがわかる。
黎明の空をうっすらとした
「このくそ寒いってのに、元気なもんだ」
誰に当てたわけでもない独り言をこぼしながら、アルバートは城に出向く準備を始めた。家の中庭にある井戸で、水をくみ上げて顔を洗って意識をシャキッと覚醒させるといそいそと軍礼服を着込んでいく。
「しまった……朝食をどうするか……」
そこまでを整えたところで肝心なことに気が付いたとばかりにアルバートはつぶやいき手を止めた。
「まあいいか、確か保存食が残っているはず……」
言いつつ、アルバートは急いで着替えを済ませて自分の荷物をあさり始めた。まだ荷解きは全然終わっておらず、とりあえず共に連れてきた御者に手伝ってもらいながら屋敷に運び込んだ荷物の中から、旅の備えとして積み込んでいた干し肉や乾燥させた果物を見つけて朝食代わりに口にした。
ちなみに連れてきた馬20頭と自分の私物以外の馬車の中身は全て城に運ばれている。御者役を務めてくれた者たちには給金を支払って昨日は街の宿に泊まり、これからは街で暮らしていく足場を固めようとしていることだろう。
食事を終えれば、剣を腰に吊って出発準備は完了だ。外はようやく太陽が顔を出し始め、薄紫から金色に塗り替わろうとしているところだ。
「んじゃ、いっちょ行ってきますかね」
扉を開けて、一歩を踏み出す。
「いかん、さっぶいわ」
踵を返して室内に戻ったアルバートは寝るときに毛布代わりに使った外套を着込んで、ようやく城までの道を歩き始めた。
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