第10話 深まる謎
「玻名城、君はどう考える? 」
「先輩のツルツルの脳みそからはなにも出てこなそうだということくらいしか」
写真部もといオカルト研究会と化した暗い部室で双子と俺、部長の成宮と後輩の玻名城が椅子に腰掛け顔つきだけは真面目に、話をしていた。
「ちょっとお。私昼ドラの再放送見ないといけないから。あの名台詞を聞かないと。『女と男が一緒ならそれは情死で決まりだな』って」
「タピオカ……お腹すいた……」
一部かなり不真面目な会話をしている運命の女神と死神がいるが気にしているわけにいかない。あとついでに言うとその台詞は昼ドラじゃない気がするぞ。
「あの呪いの壺があるのははっきりした。それより呪われた人間が俺に手紙を送ってきたということか」
俺の手にはカミソリの入った不気味な手紙が入っていた。俺は十日以内に呪われる。それ以上に気になったのは。
『許せない。愛していたのに』
双子に対して強い執着を抱いていたのなら理解はできるがいかんせん二人がのほほんとしすぎている。
「それより悪魔の壺ってなんだよ」
「そのままの意味よ」
小説ならだれでも一度はカッコつけて言いたくなる『そのままの意味』というワード。正直どういう意味かと突っ込みたくなる。別にカッコよくなんてないんだからな。
「天界のやつらに一泡ふかせたくてとってきたんだけど誰も気がつかなくて」
「正直……寂しい」
呪いの壺は現実を示したり、人の恨み言を叶えたり万能だな。そうひとりごちると。
「そうなのよ。便利だから絶対困ると思って」
「でも誰も……来ない……」
それではっきりしたのは俺の寿命が短いということくらいか。改めて成宮たちには説明するわけにはいかなかったが。
「ほほう。情報提供ありがとう。先程の発言、オカルト研究会会長としても聞き捨てならない情報だな」
成宮は鼻息荒くずかずかと間に入ってくる。こいつ微妙に邪魔なんだよな。
「先輩、絶妙にうざいです」
俺の気持ちを玻名城が代弁してくれる。成宮のやつ、後輩からの扱いもどんどんぞんざいになっている。部長として大丈夫なのか心配になった。
「それよりお前、約束とかいってたけどその相手誰だよ? 」
「ひいいい。それだけは勘弁してくれ」
かたくなに口を割ろうとしないあたり本気で危ない案件なんだろう。だけどその人物が呪われているとすれば早く助けなければ。
「お前さっきから話はぐらかそうとしたりさっきから怪しいんだよ」
「先輩同感です」
玻名城は静かにうなずく。なんというかおとなしそうな見た目に反してかなり毒舌だ。形だけは部長を立てているが尊敬はしていないというのが明白だ。
俺も後輩に嫌われないようにしよう。そう心に誓いかけたところで。
「ってちがう。俺は成宮の裏取引の相手がいるのを知っているんだ」
成宮の行状を考えれば、呪いの相手は限られてくる。その上で限りなくグレーな人間は。
「生徒会長の叶多だろう」
つい最近成宮と頻繁にやり取りをしているところから見て叶多がことの元凶だろう。でも彼女が愛していた人間とやらには心当たりがない。
「アイとセイ、恨みを買う心当たりないか」
「はあ。涼ってば本当鈍感主人公。これじゃ数多の泥沼展開が期待……できちゃうじゃないっ」
「自分の胸に……手を当てて……」
二人はやれやれと肩を竦める。暗に自分で考えろといわれ俺は勉強したての知性溢れる脳みそで思考する。
恨むの相手は俺。そしてそれは双子を愛していたから。だったらもしかして叶多って。
「女の子が好きだったとか」
「ぶほぅ。それが真面目に考えた結果か? 」
さっきまでうるさかった成宮が吹き出す。ありえないありえないと否定される。むう。なんだかムカつく。
「汚いぞお前。俺は真面目に考えてだな……」
「部長、普段はあまり共感することはないのですが。私も同感です」
どうやら玻名城にまであきれられているようだ。
「涼ってばこんなに考えてこの答えって。脳みそまで筋肉になっちゃった? 」
「かわいい……けどおバカ……」
ちょっと気の毒そうにアイとセイが俺を見て再びよしよしと頭を撫でられる。なんだか子供扱いで面白くない。
「くそう。こんな頭の悪そうな回答して許されるとかイケメン無罪かよ」
「部長見苦しいです」
ひとりぶつぶつ呟く姿が不気味だ。成宮を問い詰めたはずなのに俺が追い詰められている。どうしてだ。
「いちから考え直そう。許せない。愛していたのに、そう書いてあったよな」
この場合。許せない相手はアイとセイではないのか。そう首を傾げていると。
「ねえ涼は逆恨みだって言ってたよね」
「ああ。お前たちを愛していたってことだろう」
だったら生徒会長の叶多ではなく成宮の線もあるということか。
「点と点が全然線にならないわ」
「果てしない……誤解……」
俺が誤解しているということか。では成宮黒幕説は撤回するとして。
「もうまどろっこしいな。ああ僕が白状すれば解決するだろう。いいさ言ってやるさ」
成宮が逆にイライラしだして自分から説明し出す。
「愛していたのはお前だよ。滝川。そして許せないのもお前のことだよ」
「なに俺に告白しているんだ。きもちわ……」
「ああ。お前って絶妙にイライラするな。聞いていたら文脈でわかるだろう」
ついに俺に詰めより成宮は熱く語る。
「叶多そらはお前のことが好きなんだよ。呪いの壺を利用してまで近づきたかったのは彼女だ」
なに熱くなってるんだよとか嘘言うんじゃねえとか言いたいことは色々あった。でもそれを凌駕するほどの説得力。
これが真実なのだと俺は理解した。
「あーあ。ばれちゃったならしょうがないか。私口止めしていたはずなのになあ」
旧校舎の地下に足を踏み入れられる人間など限られている。鍵を扱えて昼休みに出歩いていても不思議ではない人間。
「ねえ。涼くん。私許さないって言ったよね。愛していたのにって言ったよね」
どうしてこんなことができるのとヒステリックに問い詰められる。
その姿は誰からも愛される少女のものではなく。
どこか化け物じみていて。
「叶多……どうして……」
それは笑顔で明るい生徒会長とは正反対のどこか狂気めいた表情の叶多そらだった。
「許さない」
俺は彼女の深淵を覗いてしまったのだ。
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