第7話 新たな出会い

「滝川っ。最近お前が女侍らしているって有名だぜ。いったいどんな手を使ったんだ」

「あのなあ」


 自称新聞部部長の成宮がカメラ片手に迫ってきた。こいつといい師匠といい女子と会話しているだけで誤解するのはなぜだろう。師匠は既婚者だからともかく、成宮の言葉にはなんというかモテない男特有の僻みが混じっている。


「俺は知ってるんだぞ。証拠の写真だってとっているっ」


 そして双子のアイとセイの写ったチェキを出してくる。隠し撮りの上女子高生が好きなポロライドカメラ。なんだこいつと引いたのはいうまでもない。


「滝川、俺とお前恋人ができたらお互い紹介するって約束しただろう」

「してない」


 はっきりいって成宮との面識はあるがそんな腹を割って話せるほど親睦を深めてはいない。


「おいいい。そこはうなずくところだろう」


 妙に悔しがるがすぐにいつものオタク口調に戻る。


「さては付き合っていないって。女子をとっかえひっかえしているってことか。このやりち……」

「それ以上言ったら殴るぞ」

「やれるもんならやってみろ」


 なぜか張り合ってくるあたり成宮も成宮だ。彼の目的はなんなんだ。

 俺が困り果てていると後ろから聞きなれた声がする。


「ちょっとお、涼。ボタンとバナナの初回一緒に見なさいよお。あのステーキに名刺入れをいれた感動の名シーンまでオールナイトよっ」

「涼……。また絡まれてる……」


 アイとセイだ。問い詰められている最中にその張本人たちがやってくるとは。因果なものだ。


「あらあら美しい黒髪の一対の天使が舞い降りてきましたな。まさに眼福……ぐへへ」

「お前色々と気持ち悪いぞ」


 なぜか口調がおかしいしよだれが出ているし突っ込みどころ満載だ。


「だって滝川にたかるくらいしか俺にできることないし。幸せのおすそわけしてくれるよな? 」

「そのがめつい精神でよく言えるな」


 俺の言葉などどこ吹く風で成宮はアイとセイに近づく。はっきりいって不気味。下手したら犯罪だ。


「初めまして。私成宮昭二ともうします。サラリーマンの次男。カメラで食っていこうと思っている故是非被写体にっ」

「いやよ。ずっと動かないのってつまらないし。私はワニ革の手帳のドラマを見ないといけないのよ。ああホステスの女の成り上がりとか最高じゃない? 」

「そのチェキ……きもちわるい……」


 うきうき話しかけたのにも拘わらずすげなくかわされる。


「滝川のくそやろう」

「相手にされないからって八つ当たりするな」


 へいへいと適当に手をひらひらさせる成宮。どうやらまだいい格好をしたいらしい。


「じゃあじゃあ滝川君と一緒にチェキでもどう? 」

「うーん。まあそれならすぐできるしいいわ」

「いい……」


 今度は正々堂々としたやりくちで写真をとる承諾を得た。こいつなんなんだ。


「はいチーズ」


 カシャとシャッター音が鳴り、アイとセイの二人が抱きついている写真が出てくる。


「おお麗しい。なんて可愛らしい。最高の被写体に出会ってしまった。でもおい滝川。てめえなんで二人を脇に抱えてるんだあああ」

「なんでって言われても」


 喜んでいるのか怒っているのか訳のわからない反応だ。


「成宮お前何したいんだよ……」

「いや最近妙な噂を聞いてな」


 そういえば新聞部は半分オカルト部のようなものだ。怪奇現象やら学校の七不思議やらとにかく変な噂に敏感だ。


「呪いの壺が出回っているらしい。なんでもそれを持った人間は危ない行動に出るとか出ないとか。負の感情を引き出して恨みごとを叶えてくれるそうだ」

「願い事じゃないのか」


 その壺の噂は心当たりがあった。アイとセイが持ってきた壺だ。あれが他の人の手に渡ったらと思うと不安がよぎる。


 俺も壺の影響で苦しんだというのか。そう考えれば合点がいった。


「忠告だぜ滝川。自分の身の回りに気を付けろ。新聞部では何かつかんでいるからな」

「おう」


 不穏な気配に俺は何も言えない。もしあの壺が戻ってきたとしたら下手なことはいえない。それに俺の寿命が縮まっていることも忘れていない。


 もしあの壺の悪さを止められるなら止めてやりたい。


「ねえ涼早く帰るわよ」

「戻る……」


 二人は全く聞いていないのか帰宅を促す。アイは昼ドラに夢中だしセイはカフェオレを片手にいそいそと自宅に向かっている。


「おいアイにセイ。大丈夫なのか? 」

「へ? 何か言ってたっけ? 」

「……何が……? 」


 二人の能天気さに毒気が抜ける。まあまさかあの壺が戻ってくることなんてないよなと一人呟く。


 俺以外の誰かが恨み言を叶えるとしたらどうなるのだろう。


 犠牲になる人間が現れてなんてほしくない。


「呪いの壺のこと、何か知っているんじゃないのか? 」

「あれ割れて消えたわよ」

「壺……なくなった……」


 二人のとってわりとどうでもいい話題らしい。まあこの娘たち運命の女神に死神だからな。今は普通の女の子だけど。


「涼君っ。新聞部の成宮が迷惑かけてごめんね。あれっ? その二人誰? 」

「おう。叶多どうした」


 ブレザーをきっちり着込んだボブヘアの生徒会長、叶多そらが下校中の生徒たちに手を振っている。ちょうど見つかってしまったらしい。


「まさか彼女? 」

「居候の双子だよ。二人もいるんだから変な誤解やめてくれ」


 叶多はふうんとだけ呟く。その目が笑っていない気がした。でも俺に心当たりはない。何か癪にさわっただろうか。


「まあまあ気を付けて帰ってね。今時男の子でも危ない目にあうんだからね」

「鍛えてるから大丈夫」

「その自信が油断になるかもだよ」


 そういうとへへっと笑う。誰からも愛される彼女らしかった。生徒会長は皆の信頼を勝ち得た人間だ。日陰者にも優しく、つい最近まで休んでいた俺を気遣ってくれているらしい。


「ありがとう。もう帰るから安心してくれ」

「じゃあばいばーい」


 叶多と別れを告げバイト先のコンビニで弁当を引き取る。バイト先の先輩が困った顔をしていた。


「いやあ参るな。カラスがごみをぶちまけてな」


 見れば店の前にごみが散乱していた。対策はとってあるはずなのにどうして。不思議に思ったが片付けを引き受け一通りきれいになるまで掃除をする。


 カアカアとカラスが目の前を羽ばたく。黒々とした羽は不穏だった。


「ねえ涼。人のバナナを笑うな見ようよ」

「ココアも……のみたい……」


 それをまったく意に介さない双子の胆の太さに感心すべきなのか呆れるべきなのか。俺はやれやれとため息をつきながら家路につく。


 事件はこれだけでは終わらなかった。









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