第9話 呪いの手紙
真面目に勉強したあとは睡魔が襲ってくるものだ。俺は屋上のベンチでコッペパン片手に寝そべる。
「ちょっとお。涼、その手紙なに? 」
「手紙……気になる……」
そして徹夜明けのはずのアイとセイは興味津々に聞いてくる。俺と同じで全く寝ていないはずなのにどうしてだろう。
「今朝下駄箱に入ってたんだ。俺なにかしたのかな? 」
「もしかしてモテキってやつかしら? 」
きゃっきゃとアイは嬉しそうに肩を叩いてくる。寝てないせいかテンションがおかしい。
「恋文……人生初……? 」
「暗に俺がモテないって言うのはよせ」
確かにモテてはいない。小学校の時は甘酸っぱいあれやこれやなんて気にせず学校のグラウンドで遊んでたし、中学に入ってからは母を亡くした反動からやさぐれていた。
だから周囲は腫れ物扱いしていたし俺自身誰かと関わりたいとは思わなかった。
「恋っていいわよお。甘酸っぱい青春の一ページもいいけど、燃え上がるような人生めちゃくちゃになるような破滅的な恋も最高なのよ」
「勝手に俺を破滅させないでくれ」
アイはとにかく人を色恋沙汰でめちゃくちゃにしたいらしい。
「で、手紙の中身は? 」
「わかったよ。今開ける」
丁寧にのり付けされた封を開け手紙の中身に目をやる。
「これって……」
「呪いの手紙……」
俺が言う前にセイが答える。中にはカミソリが入れてあり俺に悪意のある人間のものとしか思えない。
『貴殿はこの手紙を見た十日以内に呪われる。愛していたのに許せない」
愛していた。その言葉に引っ掛かりを覚える。俺と関わりがあってそんなことを言える人間はいないはずだ。
俺は人間関係適度に保ってきたから憎まれることはあっても好かれることはないはずだ。恨みを買うとすれば。
「アイとセイ、お前たちの方がモテキなんじゃないか」
それも悪い方の意味の。
「ちょっとお。それってどういう意味? 」
「私たちが……恨み言の対象ってこと……」
キョトンとする二人にあきれてしまう。こいつら危機感無さすぎだろう。
「でもそれって涼の下駄箱に入ってたんでしょ」
「だから俺への逆恨みじゃないか」
アイとセイに横恋慕した連中の一部が暴走しても不思議ではない。その対象に素行が悪い俺がいるのは致し方ない。
「ふふーん涼。結構可愛い妄想するのね」
「その発想は……あった……」
二人してまたもや能天気な反応だ。俺のことなんだと思ってるんだろう。
「だって私たちがモテるから嫉妬しちゃうって意味でしょ」
「ちがーう」
どうして明後日の方向の考えになるのだろう。俺としては真面目に対策を練りたいところなのだけれど。
「涼の方が……勘違い……」
「セイまでなんだよ」
俺が勘違いをしている? そんなわけないだろう。
「まあ涼が妬いてくれたのはちょっと嬉しいけど」
「かわいい……」
頭をよしよしと撫でられる。俺は子供かと突っ込みたくなったが。
「それよりお客さんよ」
「ずっと……見てた……」
思わず起き上がるとそこには逆上する成宮の姿があって。
「滝川あああああ。今日という今日は許さんっ」
「はあ? 俺がなにかしたか」
俺の胸ぐらつかんで詰め寄ってくる。顔が近い。やめろ。
「お前はっこの麗しい双子を独り占めするだけでなくあの人の心まで奪ってしまうのか? なんという野郎。なんという非道」
「まずそのあの人って誰だよ? 」
「ひいいいい。それだけは言えない。僕が呪い殺されてしまう」
呪い? その言葉に俺は逆に成宮の胸ぐらをつかみ返し詰め寄る。
「呪いってなんだ? なんでもいい。教えてくれ」
「知っていても言えない。僕は約束してしまったから」
なんかうっとりとした表情で言われるとイラッとするのはどうしてだろう。成宮お前のキャラじゃないぞと言ってやりたくなる。
「うわあああ。殴るな滝川。やめろ教えてやる」
俺が殴るポーズだけとっていると彼は渋々といった顔で続ける。
「部室に来い。話はそれからだ」
「はーい」
「行く……」
なぜか俺より乗り気な二人に気押されながら旧校舎の地下へと向かうのだった。
***
「とりあえず君たちに紹介しよう」
「はじめまして一年の玻名城です」
後輩の根暗そうな少女がぺこりと頭を下げる。俺たちもそれにならい自己紹介をした。
「滝川涼。帰宅部のバイト生活二年目」
「アイ。あなたとは気が合いそうね」
「セイ。よろしく……」
それぞれがそれぞれの挨拶をする。玻名城ははあとだけ呟いて先輩である成宮の様子をうかがう。
「これから諸君に紹介しよう」
やたらともったいつけるなこいつ。そう思ったのは俺だけではなかったようで。
「早く言いなさいよ盗撮魔っ」
「早くして……へんたい……」
二人の台詞に成宮はダメージを受けつつもなんとか正気を保つ。
「先輩ひどい言われようですね。擁護しようはないですけど」
「玻名城まで……四面楚歌じゃないか」
ちょうど四人に囲まれているしなと自嘲する。うまいこといった風なのが絶妙にイラッと来る。
「わかったわかった。すぐに持ってくるから」
つまりそれはものということで。嫌な予感がする。
「刮目せよっ。これが伝説の呪いの壺だっ」
奥の戸棚から取り出したのは確かにアイとセイが俺に渡してきた呪いの壺だった。
「成宮っ。これをどこで見つけたんだ」
胸元をたくしあげられ彼のシャツはよれよれだ。だがそんな細かいことを気にしている暇はない。
「場合によっては俺も手段を選んでいられないぞ」
成宮が勝手に拾ってきてすべてが自作自演だとしたら。俺は何に怯えてきたんだろう。そんな自分の小ささが嫌になった。
「待て。これはうちの部室のものだ」
話を聞いてみたらことはそう単純なものではないらしい。
「昔から開かずの戸棚があってな。ごく最近に戸が開きこの壺があったんだ」
「先輩はへんたいですけど嘘はつきません」
玻名城も一応彼を守る。確かに嘘をついているようには見えない。
「でもなんで……。あの壺は割れて消えたんじゃないのか」
アイとセイは気まずそうな顔をする。
「あれねえ。実は悪魔の壺だったの。私たちが勝手に持ち込んで……」
「ごめんなさい……」
つまり呪いの壺は健在だったことで。
「じゃあ今度呪われたのは誰なんだ? 」
「それはわからないぞ滝川」
興味津々という表情で成宮はぐいぐい迫ってくる。
「写真部もといオカルト同好会の一員として血が騒ぐな、玻名城」
「先輩の言うことはわかりませんがこれは放っておけませんね」
かくして仲間が揃ったのかもしれない。
ただ興味本位な気がしたが。
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