《死》は重い それは愛が重いものであるが故に

特殊清掃の職に就く男は死臭にまみれて働くうちに、《死》の悪夢にうなされるようになる。特殊清掃の仕事を辞めたいと考えながらも、ちょうどその時、彼の妻は妊娠しており、新しく増える家族を養う為にもいま職をなくすわけにはいかなかった。喰らいつくようにして懸命に働く男――だが、娘は死産だった。
そこから、彼の、そうして妻の精神は瓦解し始める。

死は重い。
他者の死でさえも重く、まして愛する家族の死ならば、その重さは想像を絶します。

愛は重い。
大抵は他者から掛けられる愛の重さが語られますが、実際には愛の重さは誰かを愛する側にこそ掛かるものではないでしょうか。誰かを愛するとはすなわち、その相手を抱えこむことに他なりません。相手の暮らしを肩に乗せ、精神の一端を担い、責任の一部を背負うことです。それは喜びや幸福だけではありません。肩に負い難い荷もある。負担するにはあまりにも、誰かのこころというのは重い。
故に、時には愛することから、逃げだしたくなる。ましてみずからが苦境にあるのならば、なおのことです。それは、責められることではありません。他者の負を担ぐには、ひとは脆すぎるのですから。

けれど愛したかぎり、愛するかぎりは。
その重さと向きあわなければ、ならないときがあります。



暗い題材を取り扱いながらも細部からも視線を背けることなくしっかりと書きあげ、なおかつそれぞれの傷に優しく寄り添うように綴られています。ほんとうに素晴らしい小説を拝読させていただきました。

《男》が最後に埋葬したものとは……?

是非とも、多くの読者さまに読んでいただきたい小説です。

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