絶対に譲れない作家としてのプライド

 作家になる人とはどういう人だろう?
 そう考えたことはないだろうか。

 お話を書くのが好きで、必死に書き続けていれば作家になれるのか?
 才能のある一握りの人だけが作家になれるのか?
 市場の動きを見て、需要に合わせたものを書いていれば作家になれるのか?

 現状を見て答えを出すならば「需要に対する供給ができる人」ということになるだろう。

 だが、それは本当に自分の書きたいものだろうか?


 このストーリーは、コンテストの大賞受賞者がその受賞作を「レーベルのカラーに合わせた形で書き換えろ」と編集者から指示されるところからスタートする。
 『大賞を受賞した』にもかかわらず、その作品の良さを全部葬り、流行りのカラーに塗り替えることでしか書籍化はできないという。
 なかなかレーベルの思惑通りに書き換えない作者に業を煮やした編集者は、『出版を諦めさせる前提で』読みもしない全改稿を何度も強いる。
 その結果、作家は時間と労力を無駄に浪費して自信を無くし、書籍化を諦める。
 『書籍化失敗』というレッテルは出版社には何の痛手もないが、作家にとっては致命傷となる。華々しいデビューのはずが、『失敗作家』の肩書を背負ってしまうのだ。

 と、ここまではストーリーの冒頭部分。ここからいろいろな人達が関わって物語が展開していくのだが……。


 ここに出てくる「作家の卵」はまだ孵化していない卵でありながら、作家としての矜持を体の真ん中に持っている。それはどんな仕打ちにあっても絶対に揺るぐことが無い。

 「いつも新しいものを書いていたい」という創作欲、そして知らないことをどんどん自分から吸収しようと動く行動力、酷い扱いを受けてもへこたれない強靭な精神力。
 何よりも「絶対に作家になってやる」という強い意志。

 作家になる人と言うのはこういう人なのではないだろうか。

 少し書いてすぐ満足してしまっていないか?
 ちょっと調べてわかったつもりになっていないか?
 評価が得られず大袈裟に落ち込んでいないか?

 この「作家の卵」から教わることはたくさんある。
 「へ~」と簡単に読み進めるには勿体ないほどの内容だ。
 作家になりたいと思っている人こそ、ここに書かれているたくさんの重要なメッセージを一つ一つ大切に読み込むべきだろう。


 さて、私が個人的に好きなシーンがある。
 選書するシーンがあるのだが、ハラハラする中にもちょっとしたオアシスのようなホッとできる空間として差し込まれているのがありがたい。
 子供たちに読み聞かせするシーンなどもあり、誰もが小さい頃に一度は手にしたであろう絵本が出て来て、ちょっと童心に帰れるのも本書の魅力の一つだろう。

 そして、書籍化を経験したことのない人にはワクワクするような描写がこれでもかと詰め込まれている。
 一冊の本を作るためにどれだけの人が関り、どんな風に仕事が流れて行くのか。どうやって自分の本が流通に乗るのか。
 そういったことも丁寧に書かれているので、興味のある人は是非とも読んで欲しい内容になっている。

 とにかく私から言えることは「面白いから読め!」これだけだ。
 全力でおススメする! みんな読め!!

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