中世ヨーロッパの人々は、頭痛の原因を「頭の中に石があるからだ」とみなしていたそうだ。
この主人公にとって、心臓は大事な臓器だそうだが実際、この頭の中の石とほぼ変わらないのではなかったと思う。
心臓を奪われても恋人のことを想う気持ちは変わらないし、死ぬときの気持ちも、普通の人間となんら変わらない。
むしろ心臓を奪われてラッキーだったのではないかと、なんとなく考えさせられてしまう。心臓を奪われることで主人公はダイビングができるようになった。海の壮大さを知ることができた。
望みとは違う方向に行っても、自分なりの幸せを築けているならそれでいいと私は考えてしまうのだ。なぜだろう?今回はそれを考えさせられるお話でした。
正直もっと猟奇的な作品かな、サスペンスかな……と思って読み始めたのですが、予想を裏切られました。ドロドロ要素微塵もなかったよ(笑)
心臓は人の命を左右する部位ゆえに、そこが障害されると自由を奪われるものだと思います。自由に動けない、強要するわけにいかないことは分かっている。それでも見て欲しい世界があった──そんな純粋な思いが、意外な結果を生んだのかなあという気がしました。
個人的には男性の心理描写が非常にうまいなあ、と感じています。その人のために望んだことでも、恩着せがましい言い方はせずに笑いに変えてしまう、そして相手もそれを追求しないというのはよくあるなあと思うので(特に仲がいい関係ほどそうなる傾向)。
心臓を奪われても本体が生きている、という不思議な設定を最大限利用して書き切った青春短編。さわやかな心の交流が疲れた大人の心にしみる作品でした。
設定が興味深く、文章も整然としていて読みやすい。
特に印象に残ったのは、「美しさだけなら、水族館には敵わない。だけど、潜らなければ見られない光景がそこにはあった。」というフレーズだ。
自分を含めて、人は食わず嫌いをしやすいものである。いま身近にあるものに満足し、あるいは自分には必要ないと決めつけて遠ざけてしまう。
ほんの少しの好奇心や勇気を携え、触れてみなければわからない本質的な魅力を、人は生きているうちにどれだけ知ることができるのだろうか、そんな事を考えさせられた。
主人公よりも友人のほうに感情移入し、友人の心馳せに胸を打たれた。GARNET CROWの『君を飾る花を咲かそう』という曲が思い浮かんだ。