第六話 爆弾と男の関係性
廃港に工場を拠点にしていた暴力団関係の人間は全て綺麗に気絶していたそうで、中のあちらこちらには機械水雷、機雷が製造されていた。
能力者の動乱の隙に警備を掻い潜り、潜水輸送機で部品を輸入していたそうだ。
次の日の夕方。未来は下校する幸樹に子供達を引き渡して現場に向かった。
そして現場に残してあった商用リストの人物名を見させてもらうと……
「同じような組がほとんど……」
並んでいる名前は組が付いた組織だらけで、未来も頭を悩ませている。
「どうやら暴力団同士でやり取りしてたみたいだね」
伯父もリストを覗き見る。わざわざ解説までしてくれた。
「だが一番最後の日程、七月十日。依頼主の名前が無い。ここの突入を君に手伝ってもらいたいんだ」
一昨日の十四日事件当日に会った係長が話に介入し、未来へ頼んでくる。
あの時は緊張しててあまり見ていなかったが、
「は、はいもちろ――」
未来がかしこまって返事をしようとすると……
「あ、そうだ!自己紹介してなかったね!捜査一課、能力専門係長の鈴木だ。よろしく頼む!」
返事に気付いてなかったのか、言葉を切られて挨拶をされる。
「よ、よろしくお願いします……!」
こちらも礼をして言葉を返すのだが……
「そうかしこまらくてもいいよ~。敏博君の姪なんだろ?」
鈴木さんはニコニコしながら伯父さんの肩をポンポンと叩いている。
「い、いやいや……一緒に住んでる訳じゃないですし……」
伯父さんは少し気まずそうに身を引いている。
(な、なんか気遣われてる……?)
「あれ!?住んでないの?可哀想じゃないかぁ、一緒に住まわせてあげればいいのにぃ~」
鈴木さんは今度はその肩を揺らし始めた。力強く。
「か、家族持ちだし……ねぇ?」
伯父さんのここまで引き釣った笑顔見たことがない。
(上に弱いんだ……)
「あれま!!」
鈴木さんは白くなりかけた眉をこれでもかと言う位上げて驚いている。
「ま、まあそこはあまりお気になさらず……」
両手を前に添えてこれ以上はのラインを引くと……
「嬢ちゃんもやるねぇ!」
(うぅ……めんどそう……)
伯父さんの上司の絡みも落ち着くと、明日の予定を見合わせて、午後一番に最後の商用リストに載っていた住所へ向かう約束をした。
その後は学校へ戻って報告だけ済ませ、また病院に向かう。
優華が数日間の入院になったので、幸樹が着替えを届けに行ったら……勿論勘に触って怒られたそうだ。
一緒に行った息子は泣き、なんやかんやで未来が来なければ帰さないとか言い、着いたら着いたで娘達と遊んで駄々をこねていた。
おそらく構ってほしいのだろう。
未来も拉致されかけた経験があり、拾ってもらった場所では……
「うぅ~~ん。ねぇーね~!一緒に泊まってぇ~?未来がいないと私寝られない~~!」
本当に傷口が痛いのかと思えるほど私に抱き着いてくる。下ろした髪のまま、猫なで声で駄々をこね始めた。
(なんなのよもう……!)
甘やかしたと思ったら本当に甘えてきて面倒のかかる子供だ。
「いやダメだから。そんな大怪我じゃないでしょ?」
冷静に説得するも……
「だったら私が病院で暴走するかもしれないぃ~って言ったら泊まらせてくれるかもよ?」
頭だけはずる賢く働く。どこかの誰かとそっくりでゴーヤを口にねじ込んでやりたくなる。
「あのね?そんなの院長先生がダメって言うに決まってるでしょ……」
そこを丸め込もうと説得する。
ここの院長先生とは一応乱威智の事等で面識がある。能力の研究でいち早く日本の異変に気付いた第一人者である。
そのことにより、天皇様が発表せざるを得なくなってしまったのが去年の秋。
「ん~~!でも愛美ばっかりずるい。あの院長先生に私も甘やかされたい」
と言う本人も去年の夏頃から地球に一人で訪れ、食い倒れてたところを助けてもらっている。
なのにしばらく住んでも良いという誘いを断ったらしい。
「じゃあなんで助けてくれようとしたのに断っちゃったの……私達だって心配したんだよ?」
説教じみた言い方になってしまうが、彼女の一人で抱え込んでしまう性格ならその方が良かったに決まっている。
私も同じだから分かる。そこで助け合っていける道を探せれば……
「甘えるのは未来だけでいい……」
恥ずかしそうにそっぽを向いて彼女は呟く。
「愛美ばっかりずるいなぁ……」
またぼやいている。
「あのねぇ!そんなによそが良いなら――」
未来が少し強めに怒ろうとした時、肩にポンと優しい手が乗る。
「あれは甘やかしてるんじゃないの。勝手なことしないように見張っててくれてるの。本来なら私達がやらなきゃいけないの」
結衣がいつの間にか病室に来ていた。
服は制服のまま。生徒会の仕事帰りで寄ったのだろう。
「本人いないところで言うね……」
私は苦笑いで返すことしかできない。
確かにここまで結衣が彼女について口出しすることは……
「だ、だってあの子もあの子で、乱威智にお熱じゃない。学校で席が近くなったからか……」
こちらも恥ずかしそうにそっぽを向いて妬いている。
実は妬いてる方が珍しいかもしれない。
「そ、そうかなぁ……」
アレはお熱と言うより責任と言うような言葉に近いかもしれない。
愛美より姉の未来が胸を張って言えることではないけれど……
「もう……!他人事みたいにぃ~」
彼女は眉をひそめて頬を軽く膨らませると、未来の両頬を両手で掴んで引っ張る。
「ちょ、ぢょっりょ~!にゃりすんのりょ~!」
優華の頬揉みよりは全然優しい。
「二人ともこっわーい」
優華は座っていた香恋に抱き着くと楽しそうに微笑んでいる。
「こっわーい」
香恋もニコニコしながら真似をする。
可愛らしいけど、瑠嫗奈はじっと結衣の方を見つめている。
(やってほしいのかな……?私じゃなくて?私じゃなくて結衣に?)
いつかあの二人に取られてしまわないか、時々心配になる。
「どしたの~?おりゃおりゃ」
結衣はしゃがむと、瑠嫗奈へ同じように頬をつまむ。
「えふぇふぇ~」
嬉しそうに笑っている。
「あれ?幸樹は?」
ふと気付いたら病室から夫の姿が見えない。
「へ?さっき帰るからよろしくって言われたけど……?」
結衣がすれ違い際に聞いた話を教えてくれる。
(ふーん、そうですかそうですか)
「これママ、怒ってる?」
「うん、おこってる……」
結衣が笑顔で瑠嫗奈に問いかけると、全く動じない顔で答えている。
(私の似てほしくないところが似たかも……!)
次の日の昼。
未来は伯父やその同僚と鈴木さんの四人で商用リストの疑わしい住所へと向かった。
「あ、よろしくお願いします。同僚の星野です……!」
目が合うと女性の刑事さんが挨拶をしてくれる。美人でスラッとしててポニーテール。
「こちらこそよろしくお願いします……!」
未来はこの人とは息が合いそうだと感じる。ついでにしっかりと敬意を払ってくれてるのか大人を見る目だ。
「悪いねぇ、星野くん。急に来てくれだなんて言っちゃって……」
鈴木さんは少し申し訳なさそうにしている。
急な連絡だったのだろうか。
「いえいえ……!心配でしたし……!未来さん?で合ってます……よね?体調はもう大丈夫ですか?」
星野さんはこの前倒れたことについて心配をかけてくれる。
「あ、はい。もう大丈夫ですよ。あれだけ大がかりに物を動かすなんてことが無ければ……あっ」
つい本音が出てしまう。
まるで君達のせいで倒れたと捉えてしまう人もいるかもしれない。
「ちょ、ちょっと……!」
伯父さんに肩を肘で突付かれる。
(ま、まずい……!伯父さんの顔を汚してしまう……!)
「ああぁっ、ごめんなさいごめんなさい……!そういうことで言ったんじゃないんです!」
必死に謝ってみる。
「え?ど、どうかしたんですか?」
「?」
星野さんも鈴木さんもポカンとしている。
(ど、鈍感……?そ、それとも……)
全身がゾクっとする。
「お、おトイレ?」
星野さんに本当に心配されてる。
(というかやっぱり子供扱い!?)
その後はトイレを断れず、現場に向かう途中……隣で伯父さんに小さく溜め息を吐かれる。
「はぁ……」
前で鈴木さんと星野さんが二人並んで、今回の事件のことについて説明していたからだろう。
「なんで呆れてるんですか……」
不機嫌な未来はそっぽを向きながらそう聞くことしかできなかった。
「いや……慌てす――そんなに気を張り詰めなくても大丈夫だよ?もうちょっと……!もうちょっとだけ肩の力抜いて……?」
伯父さんは途中まで注意の言葉を投げ掛け、フォローの言葉に塗り替える。
(いやそこまで言ったんならもう言い直しても遅いよ?)
「伯父さんが言うのと私が言うのじゃ違うもん……」
とりあえず言い訳をしてみる。
正直この人とはもっと砕けた話をしないと、いけないのではないか。そう感じ始めていた。
「おっと?最近あの二人、夕飯までに帰ってくれないらしいんだけど?僕に対しても冷たくなってきたんだよねぇ……愛理奈達三人にはそれぞれ優しくしてるみたいなんだけど……」
伯父さんも独り言のような小さな呟きで反撃してきた。
「はぁ……」
伯父さん家族の家で引き取ってもらってる鈴と愛美のことだ。溜め息が出てしまう。
鈴は土手でサッカーの練習に熱中しているか、病院で男の子の相手をしているだろう。
愛美は病院で乱威智の相部屋の子と仲良くしているか院長先生とご飯食べているか……
というか最近二人とも男の影があるらしい。
どちらも乱威智と特に仲良くしているクラスメイトらしい。
情報なんか相談員をしていれば嫌でもやはり入ってくる。
学生は話したがりの子が多い。
そうやって悩みを引き出すのが未来のお仕事なのだが。
「べ、別に追い詰めるつもりで言ったんじゃ……」
そんな未来を見て伯父さんはフォローを入れる。
「もうお互いですしこの話やめにしましょう」
伯父さんのところの末っ子も不登校なのに理系の大学卒業同等の資格を持っていたりと問題を抱えているそうだ。
実は天皇様の隠れ分家というやつで亡き奥さんの親父さんが親族に当たるそうだ。
「そうだね……」
伯父さんは苦笑いしながら返事をする。
また気まずい雰囲気に戻ってしまった……
どうやらその親父さんは、盲目で鍛冶職人をしている人だとは鈴から聞いたことがある。
一応刀を持っている乱威智に聞いてみたのだが……知らないと言い張られる。
その義理のおじいさん?に当たる人とは別居しているらしい。
いかにも訳ありなのである。
そうこうしている間に目的のアパートへと到着した。
(あまりに女子中学生を養えそうな稼ぎのある男性の家じゃない……)
未来もアパートで家族プラスアルファと住んでいる身でそこまでは言えないけれど、そのアパートはかなり年期が入っていた。
外付けの錆びた階段を上がり、鈴木さんがドアをノックしようとする。
「インターフォンあります」
星野さんがインターフォンがあることを教える。もうちょっと早く言うべきだったし言わなくても良かったかもしれない。
(良い見本になるかも……)
「い、いいじゃん星野さん。ホラ、実際の刑事のドアノックを憧れの眼差しで見てる子もいるし……」
伯父さんは小声で星野さんにそう伝える。
余計過ぎるところはうちの父親とそっくりでちょっとイラッとくる。
「へ?」
未来はすっとんきょうな声を上げる。
(後で念力ジェットコースターを味合わせても良いかもしれないね?ね?)
怒れないところもイラッとくる。
おかげか緊張は大分ほぐれてきた。
「ゴホン……」
鈴木さんは咳払いをしてドアに向かう。
「すみませーん!雨柳警察署の者ですが、名倉恒隆さんのご自宅で間違いないですかー?根元奈由の件で聞きたいことがこざいますので開けていただけないでしょうか?」
鈴木さんがドアをゴンゴンとノックし、少し大きめな声で質問する。
反応はない。
(すごい……本当のドラマみたい)
休日の昼に娘達と刑事ドラマを見る未来に取っては新鮮であった。
「天崎さん、後で未来ちゃん抱き締めてもいい……?」
星野さんは小声で伯父さんに聞いている。
「良いけど飛ばされちゃうかもよ?」
伯父さんも小声でそれに答える。
(お前を後で飛ばしてやるから安心しろ。五十代の高い高いは腰に響くかもしれないけれど……)
「ちょっと二人とも~!いつもは真面目なのにどうした~?」
振り返った鈴木さんに注意を受けている。
「すみません……!」
「すみません!」
(全く……緊張感が無さすぎ――何か機械音が聞こえる……?)
ピッピッと微かに機械音が聞こえる。
「うーん……事情聴取してこいって上の命令だが、明らかに今回危ないんだよなぁ~。犯人が同じような武器を持ってる可能性が高いのに、確認をしなければ爆弾処理班は呼べないと来た。まったく……」
鈴木さんの愚痴が始まる。でも本当に中間管理職は大変そうだ。
「大変そうですね……」
伯父さんがそう答える間、未来は爆弾の音の速さから型番の類いを思い出す。
(いやコレ……もしかしたら……)
悪い予感がする。
一日置いて一つ疑問点があったのだ。
例え日本の警備を掻い潜れたとしても、輸出側の警備はどうなのか?
部品は未だどこのものかも分かっておらず、ロシアの物に似ているそうだ。
そして例え人の目を欺けたとして、機械の目は欺けない。
人工衛星、レーダー探知の管制塔。
この星は宇宙の中心都市までとは言わないが警備技術レベルはかなり高い。
つまり……この星の物では無い可能性が今、非常に高い。
(その侵入や通信の警備すら通り抜けて、何らかの刺客が……?物騒になってきたわね……)
「ど、どうしたんだい?もしかして何かあったのかい?」
鈴木さんが心配してくれるがそれどころでは無いかもしれない。
未来は深呼吸をして鈴木さんを見て、真剣に話をする。
「落ち着いて、聞いてください。三つお話があります」
「はい……」
三人はまだすっとんきょうな顔で未来を見つめている。
「一つ目、この部屋に爆弾が仕掛けられていること」
「は、はい……!」
三人の息を飲む声が聞こえる。
「二つ目、それが今宇宙にある部品が紛れている可能性が高いこと」
「なっ……!」
「ちょ、ちょっとそれは……!」
鈴木さんの後に続き伯父さんも驚くが、鈴木さんはそれを手で制止する。
「三つ目。最後です……時限性の可能性があります。この星の全ての爆弾のカタログと全ての特徴を知っている人物がいなければ……解くことは難儀かもしれません……」
最後の話を終える。
「そ、そんな無茶な……!」
伯父さんは驚いている。驚くのも仕方ない。だが、ここは冷静に動いてもらうしかない。
「まず、管理人さんの携帯電話に電話をして住居者の避難をお願いします……!」
未来はそう伝え、ドア越しに触れないように耳を研ぎ澄ませる。
(今のところ熱反応の可能性も捨てきれずって感じか……この星のカタログちゃんとチェックしておくんだった……!)
「け、携帯電話ね……!んで、君はどうすんの!?」
鈴木さんはスマートフォンを開き、資料を元に電話をする。
「念力での遠距離解読をします。爆弾でなくてもいい。機械に詳しい……天才のような人はいますか?」
未来は質問を変える。そうすると……
「います!うちの息子が……!未来ちゃん、あんたならあいつがただ者じゃないって分かってるはずだ……!」
伯父さんに肩をがっしりと掴まれて言われ、ハッと気付く。
彼の末っ子の男の子、
一度乱威智と共に、彼の地下自家製工房に案内してもらったことがある。
能力検査はまだしていないだろうけど、
(そうか……!一番冷静じゃないのは私か?)
「急いで電話して!」
真剣な眼差しで伯父さんに伝える。
「あぁ!って出るかな……」
未来の気迫に答えるように返事する伯父さん。だが、変に冷静になってしまう。
「
先程強く言うと、頷いてスマートフォンから電話をかけようとする。
「星野くん……おにでんって何?」
鈴木さんは不思議そうな表情で呑気な質問をしている。
「鬼のように何度も電話することですよ。それより私達は避難指示を!」
二人は階段を下りて本部に電話をしたりしている。
『なに……』
「あ、もしもし智奈喜!起きてるか!?緊急事態なんだ!未来ちゃんに代わるよ?」
伯父さんは流れ口調で押しきると未来に端末を渡す。
「もしもし……?」
突然過ぎて緊張してしまう。
『緊急って何ですか?』
面倒そうな口調で答える彼なら、この星の全ての機工物に関して知っているはずだ。
「異星器具混合型の地球産爆弾解除よ」
未来は冷や汗をかきながら大まかな部類を伝える。
『い、異星器具!?コードは?』
彼は慌てふためき、ある程度特定できる情報を求める。
「コード?私ここのカタログ知らないから。モノは粘着型の時限式C4みたいな形。その外殻は有毒粉塵を持続的に出す水銀式の脆い殻――」
『ちょっと待って!!』
言いたいことだけ伝えようとすると、彼の大きな声で遮られる。
「ゆ、有毒物質……水銀……」
伯父さんは口を押さえて、目を丸くしている。
『有毒粉塵って……』
有毒粉塵では分かりづらかったのか、彼はそこを聞いてくる。
「水銀成分を含む麦。それを潰したものよ。主に金属毒薬として使われるの」
「金麦……」
人が真面目に説明しているのに伯父さんはビールの事を考えている。
「ごめん……」
未来がキッと睨むと、彼は申し訳なさそうに謝る。
「水銀物質を含む小麦粉の燃焼による粉塵爆発ね。ただし……」
未来は宇宙でしか無い混合物による爆発であると説明し、続けて説明の付け足しをしようとすると……
『熱から冷えた後の大量のソレが宙にバラ巻かれれば、熱伝導を起こし有毒電撃波を起こしかねない。目の前にそれが……あるわけ無いか……』
危険性を理解した彼が説明を担う。
彼の望み通り目の前にあれば正しく伝えられても生きては帰れないだろう。
「ええ、アパート二階の中間部屋にある。ドアの向こうだから遠隔処理よ」
『待って、どうやって気付いたの?』
現状況について説明すると、どうして気付いたのかについて怪しまれる。
未来はドヤ顔で答えることにした。
「音の響く鈍さ、速さ。電磁音よ」
彼女の聴力は異常なほど発達している。
『…………。今度聴力情報を……』
「バツイチにデートのお誘いはまだ早いんじゃない?」
『ロリに興味はない』
「後で覚えときなさいシスコン」
軽い冗談を挟みつつ、彼も資料を漁る音が聞こえる。
するとスピーカーになりタップ音が聞こえる。
(なるほど、QRで纏めてるのね)
『で、何故この星で作られた物と?』
彼の言う通り、それなら爆弾ごと扱えるのはこの星の人間ではない可能性が高い。
「知ってると思うけどセキュリティは厳重よ。勝手に入ろうものならそいつは異空間に飛ばされて私達が処理に呼ばれる。元々この爆弾……音自体がちっさいし変なのよ。そもそもこんな凝った時限式爆弾なんて誰が……」
今までどうして外敵の侵略を避けてきたのか。その補足説明をして、愚痴を吐く。
誰がこんな爆弾を作れるのか。そもそも爆弾について習ったことを思い出す。
最初は戦闘時に携帯していた優華に分けてもらい、彼女の祖国である場所で講習を受けたり爆薬を揃えたり等していた。
爆薬の製造に特化していた星もあったが、彼女の祖先の国は結構な素材を取り入れていたり育てたりしている。
(まさ……かね)
自分の星の人がこの星で虐殺行為を企んでいるのではないか。その事に少し恐怖を持つ。
『んで……どんな音?中身が分かれば良いんでしょ?』
彼も面倒くさいことは早く終わらせたいのだろう。
「じゃあドアに近付けるよ……」
慎重にスマートフォンをドアに
その場が静まるとチッチッと時計の音のような聞こえる。
『はぁ……』
彼の溜め息が聞こえる。
つまり解除も難儀であることが予想できる。
(やっぱり確実に殺しに来てる。でも何故この男に?え、私達?だとしたら情報が漏れて……いや、見られてる?)
敵の存在を考えるも、失踪を続けてる優華の兄が頭を過ぎる。
冷静な思考が続かない。
やっぱり仲間に助けを呼ばなくてはならないのか。
でもこれは彼女に託された仕事。
(まだ断定は出来ない……落ち着かなきゃ)
『時限式じゃない……それは遠隔スイッチだよそれは……』
彼の震えた声が聞こえる。未来はその意見に疑問を抱き思考が止まる。
「へ?」
『中の時計の音……明らかに引っ掛かっている音だよ。犯人のミスとは考えない方が良い』
確かに変な音がしていた。
でも彼女は水銀粉塵の事に気を取られて、引っ掛かっている音だと気付かなかった。
『更に起爆の仕掛けがあるならそれこそ音の響き方が変わる。でも確かに空気中に粉のような何かがあるような響きの悪さだよ』
その意見の理由について語られるも、未来は目を点にして制止している。
『残念だけど、解除の方法は無い……今すぐそこから父さんを連れて逃げて……!』
彼は悔しそうに呟くと、今までとは違って強い口調で話す。
「ねぇ、これ私の予想なんだけど……遠隔仕掛けがあったりしない?」
それはドアを開くと作動する糸による仕掛け。作動すれば実物に物が落ちたり、矢が打ち抜いて爆発。
まるで今この星以外の人間が関わっていることをやけになって否定しているようだ。
『悪手だよ。ここまで確実に殺しに来てるのにそこで手を抜くと思う?』
彼は落ち着いた様子で、自分の意見が敵の意思と破綻していることを伝えてくる。
「でも……私達、見られてるかもしれないってことは……詰んでない?」
未来は苦笑いしながら現状について再把握する。
『いや、君なら何とか逃げること位は――ザザッ』
彼との回線が突然切れ、雑音が入る。
(やっぱり来たかクソ野郎……)
『アハハ、クソ優華が一番大切にしてるモノは……オマエ、だよなァ?』
電話先の人間が見知った人物に入れ換わった。
特徴的で乱暴な話し口調。やはり、優華の兄の扇羽豪乱だった。
「なら、目的は私だけよね……?」
未来は冷や汗をかきながら目的を受け入れようとする。
一方、伯父さんは電話の内容が詳しく聞こえてないのか怪訝そうにしていた。
『そんなんで俺が許すと思ってんの?アイツを引き釣り上げた奴は全員俺が、コロス……クッ、キヒィッ……!』
豪乱は奥歯を噛み締めているのか、憤怒を抑えるような様子で喋ると……楽しそうに笑っている。
「全員殺すなら同時にやらなきゃうまくいかないんじゃない?」
そこへ未来は屁理屈を投げ掛ける。
『オマエはおもしれぇ事言うなァ!?だが残念。今回のコレはオマエに音と外殻でバレないように核時計ってのを作り上げた。扉と周囲数メートルの水銀にビビって近付けもしねぇから音で空間を把握しようが分かりもしねぇ。緻密にデキてるだろ?』
奴の解説が本当ならそれは自分達だけでは済まされない話になってくる。
「じゃあ半径何キロ吹き飛ぶのかしら?」
未来は若干上擦った声で聞き返す。
『テメェで考えやが――』
奴が勢い良く起爆タイミングを言い放つ瞬間、未来は宙を切るように手をスライドさせる。
『スパンッ!』
遠隔操作念力で部屋内の起爆物が置いてあるテーブルごと真っ二つに切り裂く。
『テメッ!?クソがッ!!』
奴の怒鳴り声が聞こえると同時に、ブチッと通話が切れる。
ここからが正念場だ。
割れた核爆弾がどうなるかなど、精神統一する今の彼女に考える暇など無いだろう。
「
未来は大きく叫び、両手に紫色の光を宿す。
(私はやってみせる!絶対にやれるッ!!)
「
放たれることなく二つの手に溜められたエネルギー。彼女は詠唱を強く唱え二つを掛け合わせて属性変換を行う。
二つの念は灰色に変わり……
「
白色に変化し、光属性の神通力へと変わる。
部屋の外装全体の空間が歪む。
すると白く透明な結界のような正方形が部屋を包み込んでいた。
その0.1コンマ先……正方形の中は赤く白く煌々と燃える。
まるでマグマに衝突した太陽の境目のような核爆発。
巨大な風圧に神通結界はドンッ!と音を立てて振動する。
「掌握ッ……!!」
彼女は苦しそうに呟きながら、手に存在する神通力の塊を握り潰そうとする。
空間の波は徐々に押し潰されていく。
「あっしゅッ……!くッ……!!」
スピードを上げて空間は押し潰されるが、彼女の顔色は段々と悪くなっていく。
「ブラックホール・デスポート!!」
彼女が再び詠唱を叫ぶと、神通力の白い塊の中に黒い点が現れて白を侵食し始める。
圧縮された空間の中では、燃え揺る爆発の中で黒い渦が暴れだしていた。
特殊なブラックホール。それは光属性のモノにのみ生める闇属性最強の空間消滅魔法。
「ッ!はああぁぁぁッ!」
強く叫ぶ彼女は神通力の塊ごと手で、腕で、全身の力をかけて押し潰す。
抵抗する力に震える手は所々出血している。
(ここまで……来たんだからッ!)
『パンッ!!』
意地で押し潰して両手が重なると、目の前の空間は消え去る。
その音と同時に彼女は意識を失った。
未来探偵 涼太かぶき @kavking
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