第二話 雷の矛盾

 まず、あの雷が落ちたという少年のみが目撃した証言は本当なのか……


 目の前の部屋の名札には根本 正宗と書かれている。


 能力暴発被害者の名前と一致しているのを確認すると、未来は深呼吸をして目を瞑った。

(深い傷を負ってるかもしれない。慎重に行かないと……)


 敢えて彼女は待合室にあの三人を置いてきた。

 伯父さんはまだ周辺の捜査や警備で忙しいそうだ。去年まではこの町の警官だったらしく、顔見知りも多いらしい。


「失礼します」

 未来はとある病室のドアをノックして引いた。


 目の前にはそれとは真反対の光景が広がっていた。良い意味で……


「正宗君!サッカーはすき?」

「うん!」

 見慣れた金髪ツインテールの高校生が正宗君と病室にいた……


「そっかそっかぁ~」

 彼女は、未来の一つ下の妹のりん

 一番一緒にいた時間が長い家族と言われればそうかもしれない。


 身長は160センチ位。

 時空系の能力を操ったりする。武術も申し分無い。だがそんなことはどうでもいい。


「鈴……?」

「ふぇっ!?」

 未来を察知したのかツインテールが電波のように跳ね上がる。


 ぎこちなく振り向く彼女は顔を赤くしている。

 その姿に先程のお姉さん声を思い出すとニヤニヤしてしまう。

(素直な声久々に聞いたかも……案外可愛いものね)


「きみ、だれ?」

 正宗君は未来を同い年位と勘違いしたのか、親しげな感じで話してくる。

 ニヤニヤは苦笑いへと変わらざるを得なかった。


「そ、そこのツンデレお姉ちゃんの姉よ。君が能力を起こして……まあ色々とあったのを聞いて来たの」

 ここに来た事情を説明する。鈴がいたおかげで警戒心はあまり無いみたいだ。


「そーなんだ。ってお姉さんのお姉さん……?」

 きょとんとして首をかしげている。

(精神へのダメージは……)

 でも、その話に一切触れなかったという事はまだ分からないだろう……


「ぷっ……」

 関係なく鈴は笑いを堪えている。未来が同い年の子供に見えたことが面白かったのだろう。


「…………」

 未来がギロリと睨むと……


「ふふっ、くっ、ひぃ……」

 更に笑いを堪え、しゃがんで腹を押さえて目に涙を浮かべている。


「お、お姉さん何したの?」

 正宗君は目を見開いて未来の方を見た。少し汗が滲み、顔が青ざめている。

(まずい……!能力を目の前にした後じゃ……)


 未来は自分から笑われた理由を説明しなければならなかった。羞恥に染まった真っ赤な顔で。

「お、お姉さんお兄さんが子供扱いされてたら面白いそうよ……!」


「あっはっは!ひぃ……お姉ちゃん、同い年に見られるとかっ……ちょっと、ひぃ……面白すぎぃ……はぁ」

 途中過呼吸になりながらも鈴に大笑いされる。


 伯父さんの家に住まわせてもらっている彼女が、愛理奈にしょうもないことを吹き込まれているのかなと考えてしまう。

(愛理奈め……)


 それはともかく、今回全部聞き出す事は出来なさそうだ。

「ちょっと鈴、真面目な話するから」


「はいはいぃ、ひぃ……」

 鈴は窓の方にもたれ、未来の座る場所を開けてくれる。


 個室の丸椅子に座り、真剣な表情でベッドに座る正宗君に話しかける。

「別に見てなかったなら見てなかったで大丈夫なのよ?私達の星じゃよくある事だったし。ただ、本当に雷が落ちたのか……」


「落ちたんだよ!!」

 途中まで話したら、正宗君は本当の事だと強く主張する。


「ちょっと、未来……?」

 鈴にも肩を揺すられる。

 刺激してしまったのなら謝らなければならない……


「ご、ごめんなさい。信じてない訳じゃないのよ?雷が落ちたのね。ありがとう、教えてくれて凄く助かったわ」

 落ち着かせるようにゆっくりと語りかける。


「うん……」

 正宗君は小さく首肯く。


 未来は伝えて良い事実だけを選び抜き、話すことにした。

「でも。今回の件、正宗君だけのせいじゃないの。誰か湖の周りで怪しい事をしてた人がいるっぽいの……」


「あやしいひと?」

 正宗君は首をかしげている。


「ど、どういう事よ!それって……!」

 鈴は怒った表情で未来に問い詰める。


(近いっつーの!)

 至近距離まで問い詰められて、少し恥ずかしくなる。


「あんたがムキになってどうすんのよ……てか何でここにいるの?」

 三番目位に気になっていた、鈴がここにいる理由を聞いてみる。


 でも大体予想はついている。

 まず、弟のお見舞いにここへ訪れた。

 無事ならいいわ!とか言い張って病室から飛び出し、彷徨ってた所を病院関係者且つ知り合いに声をかけられたのだろう。


「あー。今日は部活休みだし、お見ま……ここに寄ったら、あの紫縮むらさきちぢれ野郎にこの子と一緒にいてあげろって言われて……」

 鈴はちょっと恥ずかしそうに事情を話す。


 ほとんど正解と彼女の顔が物語っている。

 ならば二人が知り合ったのはほんのちょっと前って感じだろう。

(紫縮れ野郎って……姉の師匠をそんな呼び方すな。色々協調性に支障はあるけれど……)


「この金髪お姉ちゃん可愛いでしょ?」

 未来は仕返しを思い付き、鈴を更に辱しめる発言をする。


「う、うん……」

 少し顔を赤くした正宗君は恥ずかしそうに俯く。

「…………お姉ちゃんやめてってばぁ……」

 こういうのに不馴れな鈴は顔を真っ赤にする。


「青いね~」

 腕を組んで深々と頷く。

 自分にもそんな時間があったなと思い出し、悲しくなった。


「お姉ちゃんはもうママだもんねぇ……まあ?私にはまだ分かんないけど」

 鈴はやれやれと言わんばかりの仕草をして、未来を馬鹿にしてくる。

(ウザッ……!誰のおかげで美味しいご飯食べてこれたと思っとるんだコイツは……)


 昔は家事やご飯作りも未来の仕事。

 お姉ちゃんお姉ちゃんと素直に手伝ってた頃の鈴はどこへ行ったのだろうか……


「はぁ、とりあえず私が突き止めるわ。あんたはこの子を見ててあげて」

 今聞くべき事は聞けたと確信した未来は、溜め息混じりに椅子を立ち上がって病室を去ろうとする。


「無理しないでよ。お姉ちゃんの体は一つだけなんだから……」

 鈴も心配する素振りを見せる。


「ええ、気を付けるわ。鈴ちゃんもサッカー部のあの子と頑張ってねぇ~~」

 ドアを引いて手を振りながら、最大級の仕返しをする。


「ばかぁぁぁぁ……!」

 鈴は片思いの誰かを思い出したかのように悶えている。


「また来るねっ!」

「うん!またお姉さんの可愛いところ見せに来てね~」

 正宗君にも手を振って挨拶する。


「勿論っ!」

「勿論じゃないしぃ……!」

 鈴の言葉を背にドアを閉める。

 可愛い一面をもう一度見せたところで、次の目的地へと向かう。



 場所が場所だ。なるべく早く済ませたかったのだろう。

 未来は焦っていたのか、ある場所を避けて通るのをすっかり忘れていた。


 畏怖する物を感じていながら、逃げる手段を取らずにいた。

 そんなホラー的状況……と呼べるなら相当楽だろう。


 角でバッタリと出くわす。

 今自分が絶対に会ってはならない相手に。


「あ……」

 目が合った瞬間、彼女は制服の中の灰色フードを被る。

 普段クールな未来の心拍数は跳ね上がり、冷や汗が滲む。


「…………」

 168センチ程、金髪天然パーマのロングヘアは甘い果実の香りを漂わせる。

 見た目はスタイルの良い美人高校生。彼女は黙ったまま横を早歩きで去ろうとする。


 鈴と同じ琥珀色の瞳と、左目の黒い眼帯。脳裏に焼き付いた悲痛の視線。


「ごめんなさい……」

 通り際に聞こえる声はまだ恐怖に震えた声だった。あの日と変わらぬまま……


 彼女は未来の横を通り過ぎると、駆け足で走り去ってしまった。


 三つ子の妹。そんな身近な存在じゃなければ……

 自分が最初に能力を暴発させ、傷付けてしまった相手じゃなければ……

 いくらそんな妄想を願ったか分からない。


 でも生きているだけ幸せ。

 それが本当かも分からないし、本人達の前では絶対に言えない。


 自分が命を救った中学生の女の子に……

 話に行く足が重たくなる。


「未来ッ……!」

 目の前から聞き慣れた救世主の声が聞こえる。

 何度もどん底の自分に手を差し伸べ続けてくれた三つ子の弟。乱威智らいち


 血のような少し暗めの赤い髪。

 170センチ程の身長。点滴の台車を片手に握り、こちらを見ている。


「大丈夫だ」

 ゆっくりと近付き、未来の小さな体を抱き締める。


「少し休め……」

 掠れ気味の声は明らかに無理していることを悟らせる。


 抱き締めた全身からは血の混じった生臭さと彼独特の良い匂いがする。

「それはあなたでしょ……」


 別に病気という訳でもない。

 それは彼が命を張る程の……人間にはどう転んでも絶対不可能な任務を背負い、ある力で捩じ伏せているからだ。


 でも圧倒的な力なんて神様位にしかあるわけ無い。

 それに対し、ちっぽけな体で不死身を駆使して戦う理由は……


「俺がゆっくりと、決着を付けに行く」

 だから自分も負けられない。未来が頑張る理由の一つだ。


 でも、その敵性というのは自分にも当てはまる。

 だからいずれ時期が来れば……私はこの星の、全世界の敵になってしまう。


 普通あんな念力程度で、出産五ヶ月後の人が倒れたりなんかしない。

 先程の妹、愛美を傷付けた暴発の原因も……

 今も呪いとして自分の体に潜んでいる。


「先の事は考えるな……!姉ちゃんは安静にしててくれ。どうにかなっても俺が何とか救い出す」

 抱き締めた腕を解き、頭にポンポンと手を乗っけられる。何の励ましにもならない。

 でも姉としては幸せな瞬間だ。


「えぐっ、はぁ……私は負けないし。やることやったらさっさと子供の元へ帰りますから」

 泣き崩れた声を整え、これからやることがあるとだけ言い放つ。


「肩慣らしだ。論じるだけなら付いてってもいいぞ」

 フッとニヤける彼は、数々の敵を論じてきたかのように頼もしそうな発言をする。


「はぁ……こんな死にそうな奴が顔出したら怯えちゃうでしょーが」

 最もな発言をする。相手は中学生の女の子だ。


 でも……推測が正しければ犯人の顔を知っている可能性がかなり高い。


「べ、別に。風呂入ったらスッキリするし……」

 案外気にしている……


「まあそしたらいつも通りの良い匂いがするわね」

 良い匂いがする。いつも私が弟をからかう時の決まり文句だ。

 まあ本当の事だが。


「そ、そういう冗談やめてくれ……最近色々と――」

 彼は頭を押さえている。モテモテの男はそれ系統で悪魔にでも言い寄られるのだろう。

(溜まってるって勘違いしてからかってやろ……)


「うわ……お姉ちゃんの前でそういう溜まってるとかお下ネタやめてくれない?」

 軽いからかいのつもりだった。


「そ、それは……」

 本当だったらしい……

(こんなちっさい姉に欲情ってどんだけ疲れてるのよ……)


 真面目で美人な彼女持ちというのも大変だそうだ。まあ自分も夫に言い寄られた時は嬉しいけど困る。


「はぁ……人妻お姉ちゃんにそういう劣情抱かないで。また喧嘩しないようにね。」

 また軽いジャブを入れつつ、その場を去ろうとする。


「いだいてませんしませんー」

 風呂に向かう彼とは別方向に向かう。


(はぁ……危うくまたくよくよするところだった。弟いてよかった~)

 しみじみしながらも、違う階層の端の病室へと向かった。



 部屋の名札は小森 奈由なゆ

 被害者家族の名字、中学生女子の名前と一致している。ここで間違いないだろう。

 同じ階の病室からはたまに呻き声やわめき声が聞こえる……


「失礼しま――」

 コンコンとドアをノックする瞬間。

「いやぁぁぁぁぁぁああああ!!」

 少女の悲鳴と共に緊張感が叩き起こされる。


「落ち着いてください……!」

「早く!安定剤を!」

「駄目です!これ以上は……」

 看護婦と医師であろう人の声が聞こえる。


 後ろに気配を感じ、振り返ると先程会った治樹さんがいた。


「ちょ、ちょっと待ってて……?」

 そう言う彼に道を開ける。


 ドアを開けた彼は医師達に視認されると、お願いします!と助けを求められていた。


(流石最高峰の治癒術士と呼ばれた男ね……)



 しばらくすると……話を終えた医師や看護婦達がゾロゾロと出てきた。


「どうぞー」

 彼の声が中から聞こえる。

(本当に大丈夫なのかな……)


「失礼しまーす……」

 申し訳無さそうにドアをゆっくりと開けた。


「お手伝いも大変そうだね……?」

 汗を拭う彼は白衣を片手に持っている。

 確かに冷房が効いた部屋でも……

(やっぱり精神系の治癒ともなると大変なんだ……)


「ま、まぁ……伯父の勤め先が刑事ですし」

 未来はその理由を明白に伝える。


 でも……本当は気になって仕方無かったり、子供との接し方が分からなかったり、兄弟に負けたくなかったり……

 迷惑をかけたくない気持ちも勿論あった。


 何故、他の兄弟や幼なじみがいても頼まれるのは未来なのか……


 まず、乱威智は戦闘と治癒で忙しくて不可能。

 サッカーや青春を楽しむ鈴にも頼めない。


 愛美も伯父さんの家に住んでいるが……

 家に帰って来ない日もある事に触れれば、お前には分からないと罵倒されるそうだ。関係悪化で無理。


 優華は既に治安良化に尽くし、夫である幸樹も子育てと家事で忙しい。


 自分だって仕事で忙しい事にしたいけど……そうでもないから、校長先生にそっちを優先してほしいと頼まれている。


 他のメンバーも学校内の生徒会、家事や学業で忙しく不可能。


 未来が答えてからしばらく沈黙が流れる。

 治樹さんは顎に手を当てて何かを考えている。


「確かに最近、外国人の終末期の患者やエンゼルケアを頼まれる事もある。物騒だね……」

 治樹さんは病院事情を話してくれた。

 確かにその通りで、段々と地球人の平和や秩序も崩れ始めている……


「寝首かかれないようにしてくださいね……?」

「君も冗談ばっかり言ってると、色んな人に寝首かかれるよ……」

 軽い冗談も冗談では済まない。それ程物騒な外国人絡みの事件も噂で聞いている。


 そもそも能力なんて地球にあるべきものでは無かったし、それを先人達は彼女達の星へ移住させる事で阻止し続けていた。


 そんな不必要だった物が、何者かの差し金によって暴走している。

 宇宙の中心都市では、地球だけ突発的に能力の発動値が高くなっている事が分かったそうだ。


 だから私達は地球に残された親族を守るためにここへ来た。

 その足跡を乱威智と愛美は必死に追っている。

(なのに私は……)


「それはともかく……大丈夫なんですか?」

 嫌な思考を振り払い、彼女の容態を聞く。


「そう見えるかい?」

 彼は溜め息混じりに問い返してくる。

 彼女、奈由さんの腕や皮膚には引っ掻き傷や痣がついていて、いくつかはかさぶたになっている。


 事件以前にも彼女に何かがあったのならば……

 雷らしき魔法が落ちた後に、何者かに湖へ移動されたと考える方が自然だ。


「見えないです。ですけど私の推測が正しければ……犯人と彼女は接触があったのでは?と考えてます」

 未来は目の前の事実から、一つの推論を編み出した。


「その通り。彼女は妊娠二ヶ月。君が言い付けを破って無理したおかげで、二人の命を救った」

 治樹さんから褒められてるのかよく分からない説教を受ける。


「すみません……――ってええっ……!?」

 妊娠という言葉を脳が遅れて理解する。それは衝撃の事実であったと同時に


「だから暴れ出せば、止めなければならない……」

「あぁ……ごめんなさい」

 治樹さんの溜め息混じりの言葉に、つい謝ってしまう。


「はぁ、全くだ……能力者だからって縛ることも眠らせることも出来ないなんて、何のためにここにいるんだ……」

 お仕事の愚痴が始まった。

 彼は充実感を抱いているが、ここの職員の能力者に対する対応に不満らしい……


「え……」

「ちなみに属性は水属性、魔法特化と魔術バフ持ち。雷なんか防ぎ切れる訳がない」

 私が驚いていると、治樹さんは彼女の能力についての説明を施してくれる。


「遺伝子細胞と脳波は調べたんです?」

 私は付け足して意地悪を言ってみる。

「調べますよはいはい。そんなに俺の目が信じられないのか」


 実は彼、中枢神経系の遺伝能力……伝伸でんしん能力というのを持っている。

 と言いつつもそれ自体は私達の仲間内では珍しくない。


 末梢神経系の遺伝能力も存在し、それは遺伝子細胞が関わっている。

 そういうのを纏めて特殊能力と言う。


 そして彼が持ち合わせているのが、目で相手の身体状況、全てのエネルギー循環、能力情報まで読み取ることが出来る。

 瞬時にだ。


 私は顎に手を当てて被害者の事を考える。

「でも、それを分かってどうして平気で家族と外を出歩いてるんだろ……」

「そういう精神的ケアもあるんだよ」

 治樹さんは私が経験したことを指摘し、にやけながら嫌味を言ってくる。


「うっ……」

 その言葉は未来の心に突き刺さる。

 最初の子を妊娠してその相手が亡くなってしまった後、兄弟や仲間……幸樹やこの人にも散々迷惑をかけた記憶が……


「はは、まあ現実を受け入れるのはそう簡単じゃないさ……あ!あとお礼を言うよ。親切なハッカーさんが能力者の個人情報を抜き取ったのか、看護婦に成り代わって俺に知らせに来てくれたよ」

 彼は電気系の能力を扱える人へのお礼を、何故か私に伝えてくる。

 まず知っている中でここに来ているのは愛美以外考えられない。


「え、愛美がそんなことを?」

「あぁ、おかげで能力者への精神的処置も専門家に任せられる……」

 本人は少しだけホッとした表情を見せる。

 恐らく目の前にして、その原因が分かっても……ということなんだろう。


 それより、私はとんでもないことをしている愛美に怒りを覚えていた。

(ゲームしてるだけかと思ったらなんてことしてるのよ……!)


「怒れないのが悔しいかい?」

「そりゃあ……勿論!」

 治樹さんの問いに少し戸惑うも、自信ありげに答える。


「俺もだ。君達夫婦に怒れないのが悔しいよ……」

 彼はわざとらしく自分の鼻骨を抓みながら悔しそうにしている。


「あの時の事……まだ根に持ってます?」

 機嫌を崩した彼から、幸樹と一緒になって長女二人を守った一年程前の出来事を聞いてみる。


「あの時はね。でも二人の子供を必死に守る君に感化されたのかな……俺って元々命を救う側なのに、なんで育む君達を責めてるんだろうってさ……」

 そこに個人の感情が紛れている。医者としてあってはならないことに気付いたそうだ。


「今度連れてきましょうか?」

 私は軽い感じで聞いてみる。

「やめてくれ……この前幸樹に注意点を言ったばっかりだ。どんな嫌な叔父さん扱いされてるかたまったもんじゃない……」

 やはり二人の兄弟不仲は完全に解けていないらしい……


「はぁ……まーた言ったんですか。でも、可愛いですよ。ばぶぅに何て答えたら良いのか分からなくて、頭が真っ白になるくらい」

 未来は可愛い娘と息子に対する個人的な感情を伝える。


「ふふ、遠目で見とくよ……ん?ばぶぅって言われたらばぶぅって返せば良いじゃないか」

 そこで彼に正論を言われる。恥ずかしがり屋だったこの人にだけは言われたくなかった。


「治樹さんも案外可愛いとこあるんですね?」

 逆に少しそこをえぐってみることにした。


「なっ……!あと最近思うが、君は短期間に子供を産みすぎて心の整理がつかなくなってる。仕事ばっかりで母親として何をしたら良いのかこんがらがって強がってしまう。そうだろ?」

 墓穴を堀り当てられて、説教を受ける。


「うぅ……」

 私は頭を抱えて子供への対応を気にし始める。


「子供は純粋だ。恥ずかしがらずに君の本心で接してあげればいい」

「で、でも……近付きすぎたら突然傷付けちゃうかもぉ……」

 その理由もあるが、こんな私がそんなことをしていいのか自信が足りないところもある。


「確かに君の呪いの具合は不安定だ。でもこんなままじゃ、彼の任務終了まで持ち堪えられないぞ?」

 彼の言う通り、乱威智とはある約束を交わしている。

 任務が終わるまで、なるべく子供達と幸せに暮らすんだ。と言われている。


 呪いというのは、私が過去に愛美を怖がらせてしまった物だ……


「ですね……その方が危険、か……」

 私はやっぱり子供と向き合ってみようと決意した。


「あぁ、にしても彼も大変だな……あんな生か死を問う傷で連れてこられて、それにモテモテだから余計な付添人まで連れてくる……」

 治樹さんの最後らへんの言葉はもう愚痴になりかけている。


 乱威智がやらなければならないこの星の任務。それはこの星の竜脈に関する討伐任務だ。

 それがこの星の人達の、能力の不安定さにも関係しているそうだ。


 簡潔に言うと絶対に更に分かりにくいが、過去に遡って暴走した竜を鎮めることで任務をこなしている。

 私と同じ種類の呪いと結託、共闘し……不死身である彼等にしかこなせない事だろう。


 だから過去に遡らせてくれる神様的存在に、私達がこの星に住むことを許されているという感じだ。


『ムクリ』

「え?」

「な……!?」


 患者が起き上がり、平然とした様子で言葉を発する。

「あなた達も大変な人生送ってるのね……」

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