未来探偵

涼太かぶき

プロローグ ~未来先生 21(16)歳~

 二〇二四年。七月十四日、午後四時二十分。

 真夏の日差しは開けた窓から炸裂する。



 身長146センチの小柄な女性教師。

 彼女、天崎あまさき 未来みらいは扇風機の首を自分の方に傾ける。


 髪は赤色にちっちゃなサイドテール。

 服装は黒いキャミソールとベージュのショートパンツを身に付けている。

 首にはピンク色の吸水冷やしタオルを巻いている。

 体型は小学生、身長は中学生。本人の前では絶対に口にしてはならない。


 彼女、実年齢は十六歳。

 だが、ここでは二十一歳として話を通してもらっている。



 その特殊な理由。

 それは去年の十一月にも遡る。


 ここ、地球で天皇陛下の重大な発表が行われたそうだ。

『今まで伏せていましたが、日本は第八十三番太陽系の赤竜神星あぎととの交流がありました。先の神経に存在する運動細胞はその交流者との子孫にのみあります』


 日本の象徴と言われる天皇さまの発表とはいえ、前代未聞のニュースとなり……

 他の太陽系と移民交流をしていた。その題名はサイトやアプリのトップニュースになっていたと、校長先生から聞いた。


『その子孫が十一を越えると、特殊な能力が現れる。

運動細胞と略す物は神経で起こるタンパク合成が関係していて、それが一定値を越えると変化して能力を引き起こす。』


昨年十二月の研究ではここまでしか明かされていなかったが、更なる研究により、現在七月では仕組みが全て明らかになっている。

まあ元々未来は勉強を怠ったことは無かったのでその先の仕組みも理解している。


 交流がされていたは日本と未来の出身の星だけ。

 そう。彼女も使者として認められ、産まれた子供と夫と共に地球で暮らしている。


 すぐに交流の証拠等も公開されたらしい。

 噂では海外から日本人の拉致等のテロも計画され、脅迫文等も国に届いているらしい。


 最近問題視されているのはそれもあるが……

 地球人の能力発動者、運動細胞保持者を在留させたままにするという宇宙の決定だった。



「せぇ~ん~せ~えぇ~!先生ばっかり扇風機持ってくのずるいぃ……!」

 ボーッと考え事をしていると、身長156センチの夏服の女子生徒に、扇風機の向きを変えられる。


 天崎 愛理奈えりな

 髪色はピンクのポニーテール。

 眉目秀麗で肌も白く綺麗。開く胸元もある。


 服装は夏の半袖ワイシャツに紺のスカート。首には勿論、未来と色違いの水色吸水冷やしタオルが巻かれている。


 ちなみに彼女達は双方共に父方の従姉妹である。


 未来は扇風機ごと自分の方に向ける。

「キーキーキーキーうるさぁぁい。気分的に温度が上がる。あと湿度も上がる」

 熱風でも扇風機に当てられて言葉も緩む。


「猿じゃないもん!」

 ぷんぷんと可愛く頬を膨らませる彼女に、男の影がいないのはおかしい。

 彼女の天然さには生徒全員が驚く程であるのだから、仕方が無いと言われれば仕方無い。


「先生……!今失礼な事考えたでしょ!」

 勘もやけに鋭い。


 未来はカチッと扇風機を止め、扇風機の前から立ち上がる。

「図書室」

 それだけ言い残し、相談用のファイル等を取る。


「だめだよ!相談員はここを離れちゃいけません!」

 愛理奈にがっしりと腕を掴まれ、嫌味のように大きな胸が押し当てられる。


「じゃあ私は行くから」

 未来は細腕をうまく使ってするりとそこから抜け出す。


「まってぇ~~」

 すがりながらも付いてくる愛理奈を引っ張りながらドアへと向かう。


 エアコンが修理までの間、こういう事があるかと思い立て掛け札を用意してある。


「ガララララ」

 目の前で扉が開く。


 そこに愛理奈の父、つまり未来にとっての伯父が立っていた。

 名前は天崎 敏博としひろ

 見た目は二十代後半の若手イケメン刑事。

 でも実年齢は倍はあるだろう。

 夏用のスーツ姿で汗が滲んでいて、とても暑そうに見える。


 自分の帰りが早い時は部活終わりのこの子を送っていくのだが、やはり忙しいのかたまにしか会わない。

 だからかテンパって言葉を失ってしまう。


「!?」

 今、伯父さんは刑事の仕事中……なのでは?

 そう考えた未来は驚いていると、真っ先に愛理奈が声を上げる。


「パ、パパ!?あ!もしかして仕事ね!」

 勘の鋭い彼女は真っ先にそう答える。


「あ、愛理奈……!あんまり困らせるんじゃないぞ。未来ちゃん……!ちょっと頼みがあるんだ!校長にはもう許可を取ってある!」

 焦った様子の伯父さんは愛理奈を注意すると、急いで来てほしいとの事だった。


「わかったわ」

 一言返事で部屋に戻り、皮のショルダーバッグを取る。


『よし……!』

 聞きたくない小声も聞こえて、もう一人は学校指定のカバンを取る。


「図書室で自習」

 未来は残酷な指示を下した。

 調子に乗った子供を危険な場所に連れていく訳にはいかない。


「えーーやだやだやぁ~だぁぁ~~」

 駄々をこねてまた腕を掴んでくる愛理奈。


「ん?先生?どうしたんですか?」

 都合よく相談室の前に来るもう一人の男子部員、一橋ひとつばし 桃里とうり

 見た目は黒髪の真面目なイケメン男子。


 ここまで部員のクオリティが凄いと部も人気が出るはずなのだが……

 彼は家柄がお坊ちゃんなので、また特殊的な意味でも豪華なメンバーなのである。


「桃里!こいつを止め、てっ……!緊急で外に出なきゃならない!」

「え?ちょ、ちょっと!?」

 未来は愛理奈の手を振り解き、戸惑う桃里を置いて伯父さんに付いていく。


「ちょ、ちょっと邪魔……!」

「あっ!だめだよ愛理奈さん!さっき近くで異能力発動警報が出てるって母さんが言ってたし危ないよ……!」

 事情を前以て知っていた桃里は彼女を止める。


「くぅぅ……!先生ばっかりずるいぃぃ!!」

 愛理奈は悔しそうにその場に座り込み、地面をドンドンと叩いていた。

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