第四話 幸せな六人家族

 優華と共に、スーパーでシュークリームを買い帰宅した。

 無言の時間があっても気にならない。相変わらず下らない会話をしながらアパートの階段を上る。


「いやだから桃里だけじゃなく、生徒に手を出さないで」

 未来のいつもと変わらぬお説教。

「別に良いじゃな~い。生徒と生徒の付き合いでしょぉ?」

 彼女は屁理屈で返したら、正直何も答えられない。


 誘惑しようと七割型襲った男性が悪くなってしまう。

「まだ世間も知らない子の未来を摘まないでって言ってるの」

『ガチャリ』

 未来は鍵を開けてドアを開ける。


「じゃあ未来の三つのお豆は――」

「ただいまぁーー!!」

 大きな声で帰りを知らせ、彼女の声を掻き消す。


「おかえりー!」

 奥から夫である幸樹の声がする。

 ジュージューとフライパンで何かを焼いている。料理をしている最中のようだ。


「ねぇ、いいじゃ~ん。私、妊娠しないので☆可愛い子が頑張ったら甘い体験させてあげるのも見守る者の役目でしょ?」

 軽ーい嫌味を言ってきた。


 彼女が妊娠しなくなってしまった説明を簡潔にすると……九歳位の頃、襲いかかってきて服を脱がされそうになったので、お腹を軽く殴ったらそのまま救急搬送。


 未来の近接攻撃はオーバーパワーと言う能力で、異常な程物理が特化してしまう。


「それをそっくりそのまま結衣に聞いたらいいじゃない」

 靴を脱いで並べた後、廊下へ上がってリビングに向かおうとする。


「きっと無視されるか流される……」

 両肩を後ろから掴まれる。


「イチャイチャしてないで瑠嫗奈るうな香恋かれんを風呂に入れてくれー!」

 幸樹が娘二人を風呂へ入れるように説得してくる。


「はーい!」

 未来は返事をして向かおうとするも、ここにまだ子供が一人。

「ね、ねぇ~?私、瑠兎ると君のお風呂入れたい~。入れたい~!弄りたい~!」

 彼女は未だにしがみついてくる。


「いややめて。私がやるからいい。」

 キッパリと否定し、そのまま彼女を引きずる



 二人の娘を、優華と協力してお風呂に入れる。

 その後、ご飯を作り終わった幸樹と交代する。彼が瑠兎をお風呂へ入れてくれた。


 水色の髪を下ろした優華は、洗面所にて全裸でドライヤーを使い髪を乾かしている。

(何やってんだ……)

 二人を乾かし終わり、リビングに戻る未来の癖っ毛は濡れていても直らない。


「まんま~~」

 興味津々な香恋は、未来の足に掴んで何とか立ち上がり、癖っ毛へ手を伸ばすも届かない。


 香恋を抱き上げて髪を近付けさせる。

「よいしょ。でも濡れてるよ~?」

 ちょっと伸びてきた金髪。ベリーショートヘア並みに伸びてきたが、髪だけで頭を守るにはまだまだ早い。

「えへへ~~」

 癖っ毛をツンツンして遊んでいる。


「るーなもぉ……」

 内気な瑠嫗奈は小さな声で呟き、未来のジーパンを掴んで揺する。

 未来と似た濃い赤の髪、伸び方は香恋と同じくらい。


「はいはい、よいしょっ!」

 瑠嫗奈も抱き上げる。


「んっ!」

 癖っ毛をがっしりと掴まれる。

「ちょっ……」


「ふぇぇ……るーなぁ、ずーるぅぅ……」

 香恋が機嫌を損ねて少しぐずってしまう。


「ふ、二人とも?仲良くしてね……?それとあんまり引っ張るとママ痛い……」

 未来がそう言うと、瑠嫗奈は手を髪から離す。


「おわり、おりる」

 この子はかなり飽きっぽい。望み通り、しゃかんで丁寧に下ろしてあげる。


 すると壁に掴まりながら洗面所の方に歩いていく。

「ちょ、ちょっと優華ー!見てあげて?」

 未来は優華に様子を見るように頼む。


「えー、まだ終わって……おーおーどうした?」

 優華はドライヤーしながら下を向いて、足にしがみつく瑠嫗奈に問いかける。


「また、はだか?」

 ちょっと呆れた様子で聞かれている。

(もっと言ってやれ瑠嫗奈)


「か、髪乾かしたらトイレしたいのよ~」

 彼女の答えは全くもって理由になっていない。


「おしっこさきするとらくだよ」

 瑠嫗奈にも言われている。


「おしっこ、もれる」

 その言葉に未来もハッと驚く。


「え!?ちょ、ちょっとま!わ、わかった!今連れてく!」

 優華はドライヤーを素早く止めると、瑠嫗奈を急いでトイレに連れていく。


「間に合った……良かった……」

 優華の安堵の声がトイレから聞こえる。

 基本漏らしたら一番近くにいた人がどうにかして後片付けもする。上限は一人につき一人まで。それがこの家のルール。


「終わった?」

 優華が聞いている。彼女の声はでかいし、ここの家賃は安いししっかりと聞こえる。


「ぱぱいってた。ゆうねえちゃん、へんたい?」

 瑠嫗奈に言われている。


「は、はいはい……変態ですよーだ。ほら拭き終わった。よし!ちゃんとズボンも穿いたね」

 渋々認める。未来や幸樹が一々確認する癖が彼女にもついている。


「にーと?」

 瑠嫗奈のその言葉に未来はまた驚いてしまう。

「え?」

 優華もぽかんとしている。


 瑠嫗奈が先に洗面所から出てきて、未来の元へ帰ってくる。

「おかえりー。ちゃんとできた?」

 未来は帰ってきた瑠嫗奈に問いかける。


「できた!しーる!」

 自信満々に答える瑠嫗奈は満面の笑みでそう言う。

 この家のルールでは、ちゃんとできたらシール制。これは星に残る母親からの教えだ。


「はいはい、えーと今日のとこに……はい!瑠嫗奈のオレンジシール貼りました~」

 カレンダーにオレンジ色の丸いシールを貼る。

 オレンジシール。(百円均一ショップの量産されてるやつ)


「おかし、あとなん?」

 瑠嫗奈はもう一度ジーパンを揺すって聞いてくる。


「あとねぇ……瑠嫗奈は三つ。絵本でしょ?」

 現在四十七個。聞いて確かめる。

「うん!」

 瑠嫗奈は嬉しそうに返事をする。

 二十個でお菓子。五十個で好きな絵本。そんな制度。母親もすごいなと思ってしまう。


 愛美と乱威智は怒られることして、減らされていた幼少の頃の記憶がまだ残っている。

 流石にここでそれは採用していない。

 母親は怒るとちょっとだけ怖かった。そんな怖いお母さんにはなりたくない……


「るーな、いいなぁ……」

 香恋も羨ましがるが、この子は幼児用お菓子で使ってしまっている。


 ちなみに本は相手が買って貰ったものは貸し借りなし。出来るのは一緒にの時に読ませてあげること。


 乱威智が隠れて鈴の本を読んで、バレて泣かせたこともあった。小さながらも必死に注意してたのを覚えている。


「あ、八月の夏休みもシールたくさん月間にしようかなぁ」

 未来がそう提案した時、ドライヤーの音が止まる。


「やったー!」

「ままさいこー!」

 香恋に続き、瑠嫗奈も嬉しそうにする。

(最高なんてよく覚えたな……)

 本のおかげなのか、若干瑠嫗奈の方が言葉覚えが早い。


『ガチャリ』

 風呂場を開ける音がする。


「はぁ……」

 幸樹の溜め息。

「あ」

 優華のすっとんきょうな声。

「うー?」

 瑠兎の言葉になってない声。


「変態おっぱい星人だ。まだ服着てないで何してんの?」

 幸樹が呆れた声で聞く。


「髪乾かしてんだよ、育児ニート」

 怒った口調の優華が答える。


「ど、どうして怒ってるんでちゅかー?」

 幸樹は怖がりながら聞き返す。


「変な言葉覚えさすな。あんたからなんか侮辱されてる気がしたのよ」

 優華はまだ気にくわない様子だ。

 そりゃそうだろう。未来達が来るまで彼女は、彼氏でもない男の金でほぼ泊まり掛けの生活をしていた。


「お胸隠した方が良いでちゅよー」

 だが幸樹も引かずにふざけている。


「謝れよ……ほら、ぼいんぼい~ん。くちゃあくちゃあ~ほらほら勃起するか~?しねぇだろ?ロリコンが」

 優華もイラつきながら呟き、凄い下ネタを含めた煽りをしているのが擬音で分かる。


「ぼっきって……なに?」

 瑠嫗奈が反応して覚えてしまった……


 念動能力サイキネシスで優華を浮かせて、彼女の服も念力で動かす。服を恥部に押し付けたままこちらに連れてくる。

「使わすな」

 笑顔で問いかける。


「す、すいませーん……」

 目を逸らして気に食わなそうにする。


「幸樹!」

 未来は幸樹を呼ぶ。


「はーい!?」

 能天気な返事をする。


「今度変な言葉覚えさせたり優華煽るごとにアレの毛一本抜くからなー!」

 普段の口調のままそう伝える。

 脅迫ではない。ムダ毛はいらないものだ。


「す、すみませんでしたー!」

 ちょっと焦ったように謝る。


「こっわ……」

 優華だけが怖がっている。そう信じたい。



 夕飯も皆で食べ終わり、シュークリームも食べて歯磨きもさせる。


 子供達もあっという間に寝かせる時間になり、寝室で皆川の字で一緒に横になる。

 瑠兎は首が心配なので、まだベビーベットに寝かせている。


 子供達がすぅすぅと寝た後……

「伯父さんから聞いたけど、今日大変だったんだって?大丈夫?」

 幸樹が小声で聞いてくる。


「あー、うん。でもまあ心配ないよ。伯父さんもいたし、あの子達もいたし」

 治樹さんがいたことは誤魔化して喋る。


「私もいたよ……!」

 優華も誇らしげにアピールする。


「治癒、してもらったんでしょ……?」

 幸樹はちょっと辛そうにそう聞き直してくる。


「うん……嘘はつかない。正直、ヤバかった……」

 彼の方へ向き、少し苦笑いしながら真実を伝える。


「命救おうだなんて余計なこと考えてたら危ないし、今度から私も行くから。まあ私がいたとこで今回助けられたかと言われると、微妙だけど……」

 優華がフォローしてくれる。

 確かに一緒の方が心強い。


「子供達は僕に任せてくれ……!」

 幸樹も負けじと元気付けてくれる。彼が子供達を見てくれるだけで、それが安定剤になる。


「ありがと……」

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