第7話 (とはいえ、…………わりとマジで心配だな)
「は~あ!? お前なあ、そりゃ、……ちょっと早いんじゃねえかあ!?」
「僕もそう思うし、そう言ったんだけど、熱意に押されてね……。手を見てみたら、木刀で地道に練習してたんだなってのがわかっちゃったし……」
「いや、そうだっつっても、本物の剣だろう? ……俺は持たせるべきじゃねえと思うが、レンの坊主には」
(……レン?)
昼下がり。盗み聞くつもりはなかったが、通りがかりに聞こえたその名前に、スクーデリア三姉妹の次女、ベルの耳はつい反応してしまった。
ここは屋外に席を設けるタイプの飲食店が軒を連ねるエリア、街の中でも人が賑わう場所だ。
テーブルについて話し込んでいるのは、男性ふたり。
(酒場でよく見るおっちゃんたちだな)
酒場の常連同士、ベルたち三姉妹とは顔見知りといったところだ。
ほとんど迷わずに、ベルはふたりへ話しかけた。
「よお、おっちゃんたち。盛り上がってんじゃん、なんの話?」
「ん、おお! 三姉妹の!」
「ベルちゃん、こんにちは。買い出しかい?」
「おう、自分のと、それから姉貴とナーファルの昼メシ。で……」
姉妹の分の昼食が入った紙袋を掲げて示しつつ、うながしてみる。するとふたりの内、身体も声も大きな男性の方が応じてくれた。
「おう、いやあ聞いてくれよ! 知ってるかもしれんがこいつは武器屋をやっててな、今朝、レンの坊主に剣を売ったっつーんだよ!」
「は? 剣? ……それ、木製とかじゃなくて?」
「金属製だよ。細くて軽いヤツだけど、れっきとした本物の剣だ」
そう答えたのはふたりの内のもうひとり、少し線の細い穏やかな印象の男性だ。
(……レンに剣? いやあ、……どうかねえ)
ベルにはなんだか、異様にミスマッチな気がしてならない。
「俺は思うが、レンの坊主に本物の剣はまだ早いぜ。いくら軽めのヤツだっつったって、金属の剣は金属の剣だ。あの細い身体じゃ満足に振れなかろうよ」
身体と声の大きい男性が渋い表情でそう言うものだから、ベルもついレンが剣を振るう姿を想像してしまった。
「……なあ、おっちゃんたち。アタシはそれ、危ねえんじゃねえかなと思うんだけど。なんつうか…………振った剣止められなくて足にぐさーっとか、あるんじゃねえの?」
「やっぱそうだよなあ!」
「う~、そう、そうなんだよなあ……心配なんだよなあ……」
武器屋の店主は、頭を抱えて悩ましげな声で続ける。
「でも、あの子はこうと決めるとすごく頑固なところがあるから、僕から買えないとなったら何とかして別のところで手に入れちゃうだろう……。そしたら、値段だけ高く付く身体に不釣り合いに重い剣とか掴まされちゃうかもしれない、なんて考えると……」
「あー……そりゃ、たしかにそっちのが危ねえわ」
店主の説明に、ベルは納得の声を返した。
(とはいえ、…………わりとマジで心配だな)
ベルは別に、姉が持っているような感情をレンに抱いているわけではない。
わけではないけれど、ついつい構ってしまいたくなるというか、なんとなく放っておけないような気持ちはある。
あのあまりに魅力的な歌声のせいなのか、それとも別のなにかによるものなのか、それはわからないが。
(レンになにかあったら、姉貴はヤベーだろうな。ぶっ壊れそうだ。ナーファルも、本気かどうかイマイチわからんがご執心っぽいし、……ま、アタシも知らん仲じゃない)
こんな話を聞いてしまった以上、何もしないというのは難しい。
「おい武器屋、レンの坊主が剣振ってるとしたらいつもの森だろ? あいつのことだ、たぶんまだやってるだろう。こうなりゃ、俺がちょっくら様子見に行ってくらあ」
「いや、売ったのは僕だからね、僕が責任持ってちゃんと監督してくるよ。危なそうだったらやっぱり返品してもらおう」
「待った待ったおっちゃんたち、いいよ、アタシが行ってくる」
気がつけば、ベルは二人を押しとどめるようにしてそう言っていた。
「嬢ちゃんが? いや、でもよお」
「ベルちゃんたちは、ただでさえ魔物と戦ってくれていて大変なのに」
「へーきへーき。つうか、剣の振り方の話なら本職に任せとけって」
武器屋の店主は武器の売り買いと手入れが本業だし、声と身体の大きい男性は農夫だったはず。自分の方が適任だ。
とにかく請け負って、ベルはふたりと別れた。
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