かつては手に入ると思っていた、ぴたりと合う「性」

作者さんの「決して時間の無駄はさせません」の心意気に最初はびっくり。おおー、ここまで書いてしまうか、すげー、と。

そして結論から言うと、作者さんの言うとおり。この作品を読んだことは決して時間の無駄ではなかった。読了後、「何かを読んだ」という確かな感触があった。
実のところその感触は、いつでも得られるようなものではない。

流れるような文章。だが確かに独自のリズムがある……そして、粘り気がある。

冒頭しばらくの流れに、面食らう読者もいるだろう。特定業種にまあまあ特化した話題や会話が続く。もちろん素人を追い払うような文章ではないのだが、ウェブ小説によく見られるアプローチではない(と、思う。自信はないが…)
しかしそうした文章の中にも、人間関係にかかわるちょっとした伏線と、作品全体に流れるある種のビジョンのようなものが、こっそりと提示されている。
主人公がどんな人間なのかを、上から中にかけて、少しずつ開示していくさまも好みだ。

主人公といえば、この人は別の視点からは(あるいはテンプレート的には)ある種「胸糞」としても描きあげられうるような人ではと感じた(失礼!)。だからこそ、この作品の、この描き方に密度を感じる。現実に微細な根を張った感性を感じる。

機械設計の「はめあい」にかぶせられた、メスとオスのパラドックスがなんとも言えない。女だが、オスだから、こちらが身を削らねばならないーー
やるせない。

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