僕が死んだ日

作者 文長こすと

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★★★ Excellent!!!

体を捨てる時、人間の心に何が起こるのか。
一貫したテーマに沿って、洗練された文章が深い問いを浮き彫りにします。
それでいて主人公の心情は精緻かつみずみずしく描写されており、読み手を話の中に引き込んでくれます。
家族と自分はあくまで別の人間でありながら、家族を否定することはある意味で自分を否定することなのかもしれない。
自分自身を探そうともがく主人公に、さりげなく感情移入させてくれる秀作です。

★★★ Excellent!!!

『ハーバード白熱教室』で日本でも有名になった哲学者マイケル・サンデルは、バイオテクノロジーによって「身体を選ぶことができる」ような未来について警鐘を鳴らしたことでも知られている。

生まれもった身体を捨て、自分が選んだ身体に入ること、あるいは体の「不満な部分」を「良い部分」に取り替えること。それは人間の究極的な自由を意味しているように思われる。
しかし、とサンデルは言う。「自分が選んだのではない条件の中にあること」は、逆説的だが、人間の自由の前提なのだと。

不自由な身体。望まなかった容姿、性格。
そして、親。

そういった束縛である。

本作品の主人公が向かおうとするのは、こうした考え方とは対極にある方向かもしれない。両親との関係に悩みつづける彼は、肉体を新しくすることで、両親の死後なお残された親への執着――一種の呪いだ――をも断ち切ろうとする。

サンデル型の考え方にも一理はあると思うわたしだが、それでも本作で主人公が求めた「選択」と「未来」には感じ入るものがあった。それは主人公がなぜ「軛」から逃れたいと願うのかが、物語の中で密度をもって描かれているからだと思う。

主人公はいろいろ思い悩んでいるのだが、不思議とグジグジしたウェットな印象はなかった。それはみずみずしい文体のためだろう。

読んでいてわたしが理解に苦労したのは、主人公が捨てようとしているのが「遺伝的な(血の)つながり」であるととらえられているところか。彼の思いを生んでいるのは、生物学的なつながりよりもむしろ、長年の・毎日のかかわり(あるいはかかわりの欠損)であるようにわたしには感じられたのだ。

けれども人によってその受け止め方は様々だろう。子の親に対する葛藤が、SF的な題材を通じていかなる姿を見せるのかを、洗練させた形で描いた短編だと思う。

★★★ Excellent!!!

死、とは色々あると私は考えています。肉体的な死は言わずもがな、精神、社会、にも死という言葉は付き纏う。
この主人公は、果たして「生きていたのだろうか」。呪縛から解き放たれることを仮初めの死とした主人公は、私には、愛に飢えた瞬間からどこか死んでいたように思えました。

今これを見ている貴方、私が言っていることが分からないでしょう。それは当然です。この作品の感想は、この作品を見た者だけが抱けるもの。
意地悪なようですが、早く読むことをお勧めします。言葉とは曖昧だ。貴方が貴方である内に、さあ、早く。